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「緋衣草って、本当に綺麗よね。まるで赤い衣を着た小さな天女が、たくさん群がっているみたいじゃない?」
希里亜は大人びた口調で、サルビアをうっとりと眺めている。
「まさか、これをここに持って来たのは……希里亜ちゃんなのか?」
私の問いに答えもしない希里亜は、無言でただ微笑んでいる。
そんな希里亜から目が離させないでいると、抱いている真っ白なウサギのヌイグルミの足に、小さな赤い染みがあるのが見えた。
「希里亜ちゃん、お母さんが……誰にやられたか、顔は見た? どんな人だった? 知ってる人? もしかして、今まで……その人と一緒だった?」
自分の誕生日に母親を殺され、それを目の当たりにしたとなると、どれだけ心に傷を負っていることか。
しかし、犯人を捕まえるためにも、希里亜が見たことのすべてを訊き出さなくてはならない。
すると、希里亜は突然、声を上げて笑い出した。
「あの女……信太郎に色目を使うなんて、とんでもない売女ね」
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