第19話

2/2
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
「緋衣草って、本当に綺麗よね。まるで赤い衣を着た小さな天女が、たくさん群がっているみたいじゃない?」  希里亜は大人びた口調で、サルビアをうっとりと眺めている。 「まさか、これをここに持って来たのは……希里亜ちゃんなのか?」  私の問いに答えもしない希里亜は、無言でただ微笑んでいる。  そんな希里亜から目が離させないでいると、抱いている真っ白なウサギのヌイグルミの足に、小さな赤い染みがあるのが見えた。 「希里亜ちゃん、お母さんが……誰にやられたか、顔は見た? どんな人だった? 知ってる人? もしかして、今まで……その人と一緒だった?」  自分の誕生日に母親を殺され、それを目の当たりにしたとなると、どれだけ心に傷を負っていることか。  しかし、犯人を捕まえるためにも、希里亜が見たことのすべてを訊き出さなくてはならない。  すると、希里亜は突然、声を上げて笑い出した。 「あの女……信太郎(しんたろう)に色目を使うなんて、とんでもない売女(ばいた)ね」
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!