第1話

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第1話

 真っ白なウェディングドレスを着た妻が、窓から外を見ていた。  その美しい後ろ姿に、妻の名を呼ぶ。  振り返ろうとした妻は、手にしているブーケを出窓に置いてあった鉢植えに引っ掛けてしまった。  スローモーションのように落下していく鉢植えが、床の上で音を立てて割れると、真っ赤に咲きほこる花がドレスの(すそ)に触れた瞬間、そこから侵食していくように、真っ白だったドレスが赤く染まっていく。  そして、妻が手にしているブーケの花も、それと同じ鮮やかな赤い花へと変わっていった。  久しぶりに妻の夢を見た。  妻の都和(とわ)は、八年前に亡くなっている。  あれは……事故だった。  夢から目が覚めても妻が大事に育てていた鉢植えの花が、こんなにもはっきりと瞼に焼き付いている。  妻を亡くした直後は、何度も妻の夢を見たが、しばらく経つと私の夢に妻は現れなくなった。  それが……どうして今頃になって?  私は、枕元の向こうにある小さなテーブルへ目を向けた。  そこに乗せていた写真立てを見ると、写真の中の都和は今も静かに微笑みかけている。  思わず視線を逸らし、薬指にはめたままの指輪を見つめた。  カーテンの隙間からは、夕日が射し込んでいる。  妻の死後、住み慣れた都会を離れた私は、郊外のアパートで一人静かに暮らしていた。  この日、警備員の仕事は夜勤だったが、さっき見た夢のせいで、目覚ましが鳴るより早くに目が覚めてしまった。  と、その時、玄関のチャイムが聞こえた。
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