32人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話
真っ白なウェディングドレスを着た妻が、窓から外を見ていた。
その美しい後ろ姿に、妻の名を呼ぶ。
振り返ろうとした妻は、手にしているブーケを出窓に置いてあった鉢植えに引っ掛けてしまった。
スローモーションのように落下していく鉢植えが、床の上で音を立てて割れると、真っ赤に咲きほこる花がドレスの裾に触れた瞬間、そこから侵食していくように、真っ白だったドレスが赤く染まっていく。
そして、妻が手にしているブーケの花も、それと同じ鮮やかな赤い花へと変わっていった。
久しぶりに妻の夢を見た。
妻の都和は、八年前に亡くなっている。
あれは……事故だった。
夢から目が覚めても妻が大事に育てていた鉢植えの花が、こんなにもはっきりと瞼に焼き付いている。
妻を亡くした直後は、何度も妻の夢を見たが、しばらく経つと私の夢に妻は現れなくなった。
それが……どうして今頃になって?
私は、枕元の向こうにある小さなテーブルへ目を向けた。
そこに乗せていた写真立てを見ると、写真の中の都和は今も静かに微笑みかけている。
思わず視線を逸らし、薬指にはめたままの指輪を見つめた。
カーテンの隙間からは、夕日が射し込んでいる。
妻の死後、住み慣れた都会を離れた私は、郊外のアパートで一人静かに暮らしていた。
この日、警備員の仕事は夜勤だったが、さっき見た夢のせいで、目覚ましが鳴るより早くに目が覚めてしまった。
と、その時、玄関のチャイムが聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!