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「えっと、ついこの前あのアパートに越して来ましたよね?」
「えぇ、それまでは今より少し遠い所に住んでたんです」
矢吹が言うには、当時住んでいたアパートは老朽化が進み、解体されることになったそうで、どうせ引っ越しをするなら小学校やこども動物園に近い場所にしようと、あのアパートに決めたらしい。
「それはさぞかし大変だったでしょう。そういえば、希里亜ちゃんと二人、と言ってましたが……ご主人は? 転勤か何か、ですか?」
つい警察のクセで、探りを入れるような聞き方をしてしまう。
「あの子は……、父親を知らないで育ったんです」
何か、よほどの事情があるのか、矢吹はその顔を曇らせた。
「私は以前、警察官でした。もし、困っていることがあれば、何でも相談してください。私でよければ、力になりますよ」
思わずそう言ってしまったが、矢吹は元警察官と聞いて驚いている。
そして、視線を落としてキュッと唇を軽く噛みしめると、矢吹は真剣そうな顔でどこか迷いながらも重い口を開いた。
「実は、変だと思われるかもしれませんが、あの子の妊娠は……身に覚えがないんです」
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