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知っているその臭いに、ケーキの箱が手から離れていくのも構わず、慌てて中へ入る。
「矢吹さん? ……希里亜ちゃん?」
声を張り上げながら中へ入った時、室内には臭気が充満し、居間には血だらけの矢吹が倒れていた。
「矢吹さん! 矢吹さんっ!」
どうやら腹部を数か所刺されたようで、息はすでになかったが、体はまだ温かい。
いったい……誰がこんなことを……。
抱きかかえた矢吹の大きく見開かれた目をそっと閉じてやる。
もうすっかり枯れていたと思っていたが、どうやら私にはこうして流すだけの涙はまだ残っていたらしく、嗚咽とともにあふれだしてきた。
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