32人が本棚に入れています
本棚に追加
第4話
「矢吹さん、サルビアがお好きなんですか?」
「いえ、たまたまホームセンターで種を見付けたもので……」
たまたま……か。
「おじさん、サルビアの本当の名前、知ってる?」
「あ、あぁ。えっと……なんだったかな」
私が思い出そうとしているのを希里亜は待てなかったのか、すぐにその名を口にした。
「ヒゴロモソウ、だよ」
そうだ、緋衣草だ。
サルビアが好きだった妻は、和名の緋衣草という名を気に入り、真っ赤なサルビアにふさわしい響きだと言って、いつもそう呼んでいた。
「希里亜ちゃん、よく知ってるね?」
希里亜は、得意げな顔をしている。
「それじゃ、花言葉は知ってる?」
私は、それも妻から聞いて知っていたはずだ。
確かサルビアの花言葉は……『家族愛』。
サルビアには様々な色があり、その色によって花言葉が変わるとも妻は言っていた。
それを思い出そうとしていると、またもや希里亜は私の答えを待てなかったようだ。
「花言葉はね、『家族愛』だよ。赤いのはね、『燃える思い』なんだって」
「希里亜ちゃんは、ずいぶんと物知りだね」
「図鑑で見たの」
希里亜は時々、大人顔負けのことを口にするが、最近の子供は皆、こんな感じなのだろうか?
私には子供がいないせいか、その辺のところはよく分からない。
「小塚さんは、これからお仕事ですか?」
「はい。警備の仕事なので、その日によって時間はバラバラですが……」
「なんだか頼もしいわ。ウチはこの子と二人なので、何かあったらお願いしますね」
どおりで父親の姿が見えないわけだ。
矢吹は離婚したのか、はたまた未婚の母だったのだろうか?
矢吹母娘と別れてバスに乗った私は、一人考え込んでいた。
あの……赤いサルビア。
それに、希里亜が学校から帰ってくると、いつも大事そうに抱えているウサギのヌイグルミ。
ただの……偶然だろうか?
サルビアといい、ウサギといい、どちらも妻を思い出させるものだった。
最初のコメントを投稿しよう!