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第20話
今、希里亜は……私を信太郎と言った。
私の下の名前は、矢吹はおろか、この希里亜にも言っていない。
それなのに、どうして希里亜は……私の名前を?
ましてや、自分の母親を売女呼ばわりするなど……。
「まさか……希里亜ちゃん、君がお母さんを……?」
「こゆきもそうしろって言うのよ」
ニヤリと小さな顔を歪めながら口にしたのは、妻が飼っていたウサギの名前だった。
いったい何が何だか分からず、この状況に頭が追い付かない。
だが、どこか言い知れない恐怖で、額から汗が滴り落ちてくる。
「あの女、何て言ったと思う? 『もし、小塚さんがお父さんになったら、希里亜は嬉しい?』よ。信太郎に色目を使うのはまだ我慢できたけど、信太郎は私の夫で、父親なんかじゃない! それに、あの女の単なる片思いならまだしも……信太郎もあの女を好きになったんでしょ? だから殺したの」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
悪びれもせず、当然のように希里亜の口から次々と飛び出す言葉に、私はさらに混乱していた。
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