第5話

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第5話

 当時、警察官だった私は、独身寮から結婚を機に妻と官舎に移り住んでいたが、その翌年、妻が急にウサギが欲しいと言い出した。  もちろん、官舎ではペットを飼うのは禁止されている。  しかし、それは表向きだけで、実際に小動物を飼っている者は多く、階級の高い警察官の家庭では、犬を飼っているところもあるくらいだった。  しかたなくウサギを飼うことに承諾した私だったが、その時の妻は、精神的に少し不安定になっていた。  長く勤めていた会社を辞め、慣れないパートの仕事に多少のストレスを感じていたのかもしれない。  私は妻の状態を心配していたものの、何かと仕事が忙しかったせいで、なかなか妻にも構ってやれず、ペットでもいれば少しは気も紛れるだろうと思い、ウサギを飼うことにした。  だが、恐れていたことが起きてしまった。  真夏の日中だというのに、妻はエアコンを切ったまま、家を何時間も留守にした。  いくら札幌でも、ここ数年の暑さは東京とほとんど変わらない。  私が帰宅した時、妻のいない家の中はむせ返るような暑さで、すぐにエアコンのスイッチを入れた。  そして、ウサギのいるケージへ目を向けると、ウサギは中でグッタリとしていた。  急いで動物病院へ連れて行ったが、ウサギは熱中症で死んでしまった。
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