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部屋に入って、簡単な夕食とともに缶ビールを喉に流し込むと、優待券に目をやった。
動物園……か。
あれからも矢吹は、作り過ぎたという料理を何度も持ってきてくれたが、そのどれもは私の大好物で、その味も妻が作ってくれていたものによく似ていた。
こんなにもよくしてくれる矢吹に、私は何も返していない。
今の私に返せるものは、何一つなかったからだ。
翌日、仕事は休みだった。
午前中は、掃除をしたり洗濯をしたりしているうちに、時間はあっという間に過ぎていく。
午後二時を過ぎた頃、食事の買い出しに私は外に出た。
歩道に出て、スーパーへ向かおうと数歩、歩いた先で足が止まる。
私は、スーパーとは反対の方向へ歩き出した。
やって来たのは、こども動物園だった。
ポケットには、忍ばせておいた優待券が入っている。
さすが、こども動物園というだけあって、それほど広くない敷地に鹿や羊、モルモットやウサギなどの小動物と、数種類の鳥がいるだけで、平日のせいか客もまばらだ。
せっかく来たのだから、ゆっくり見て回ろうと園内を歩いていると、清掃員の制服を着た矢吹を見付けた。
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