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「なぁ、どっちが良いと思う?」
目の前に二つの鞄が並んでいる。
かれこれ一時間、いやもっと長いかもしれない。決めかねている二つの鞄は形は同じだが、色が違うのだ。
「左はさ、白を基調としている生地だから、爽やかさを感じる。右は黒を基調としているから使い勝手は高そうだよな。ぶっちゃけ、どっちも捨てがたい」
たまたま見つけたスポーツショップを覗いていたら、鞄が目に入った瞬間に欲しいと思ったのだ。しかし衝動買いを思わずしたくなったとき、二色の鞄を同時に買う勇気はなかった。
鞄一つで、五千円。二つ買ったら一万円になる。一万円も鞄だけに使ったら贅沢以外のなにものでもないだろう。
そういや友達は五万円の鞄を買ったとか言ってたよな。傷が付いたり、汚れたり、お手入れしないと落ち着かない鞄というのは俺には無理だ。どうしても欲しかった過去一金のかかった鞄は、せいぜい八千円くらいだった。
あと少しだけ安ければ即決できないこともないのだが。
五千円は俺の中では、まあまあ高い方だ。
「でもなあ鞄を買っても出掛けることもなくなったし正直ほぼ使わないままで終わるかもしれない。かと言って滅多に気にいる鞄っていうのも見かけないんだよなあ。特に欲しいときに限って出会わない」
心の叫びが思わず溢れ出る。
ふと振り返ると、制服を着たといってもスポーツウェアを着た店員が笑顔で「どちらもお似合いですよ!」と口にした。
店員お決まりの台詞だ。
「気になる方は、両方どちらも買って行かれる方もいます。その日のコーディネートに合わせて使い分けることもできますから。あ、お客様が普段から着られる服装が明るめか暗めかで使用頻度の高くなりそうな色味を検討いただくのも良いかもしれません」
店員は、商品棚から白い鞄を取り上げて背中に背負うと後ろを向いた。
確かに、店員の言っていることは一理ある。
白めのスポーツウェアを着た彼女は、白い鞄がよく似合っていた。逆に黒い鞄だと目立ちすぎて合ってない気がした。
なるほどなぁ。
第三者から見ると印象が違って見えるようだ。だとすると、普段黒っぽい服装をしていることが多いから、逆に白い鞄だと浮いて見えてしまうのかもしれない。
「それじゃあ、俺は黒にします」
「ありがとうございます。他の商品も見て行かれますか?」
「いや鞄だけで良いです」
白い鞄を商品棚に戻した店員は、すぐ隣の黒い鞄を手にした。
「ではこちらでお会計ですね」
「はい。お願いします」
新調した鞄を支払いながら、いつ出掛けられるだろうか、ふと考えた。
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