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「えっと……?」
「澄男さま、記憶にありませんか。女アンドロイド戦のとき……トト・タートの言葉」
記憶の戸棚を手当たり次第にこじ開けまくるが、全く思い出せない。あのときの会話はほぼ蚊帳の外だったから、覚えているわけがないのである。俺に話していたわけでもなし、完全に猫耳パーカーと金髪野郎の間で収束していた会話だったし、そんなのを俺が覚えていることに期待する方が、無理がある。
そんな俺を見て、御玲はこれまた全力呆れ顔で俺を睨みながら、大きくため息をついた。
「トト・タートは言ってました。『私の友人っす。結構腕っ節が強くて、余程のことがねー限り負けはしねーんで』と」
ご丁寧に声真似までやって、台詞を再現してくれる。
声真似が妙に上手い上によくもそんな一文字も違わず他人の台詞を覚えていることに心底驚いたが、寸分違わず再現されてもやはり思い出せはしなかった。そういやそんなこと言っていたような気がする、程度である。
「だからですね……要するにトト・タートは、モモヨの存在を隠ぺいする道を選んだわけです」
記憶に何も留まっていないせいで全然理解が進まない俺に、猫耳パーカーに変わって御玲が説明を始める。
当時、北支部の面々―――つまり俺たちは女アンドロイドの動向はおろか、アンドロイド軍団の情報すらほとんど得られていなかった。それは女アンドロイドの軍展開が速すぎたせいだが、俺たちもあのときは久三男が得た情報を、違和感なく金髪野郎たちにどうやって伝えるかを悩みあぐねていた。
それと同じく猫耳パーカーも本当のことを言うべきか悩んでいたが、既に北支部にもアンドロイド軍団の被害が出ている背景を、当時の任務請負証での霊子通信でやっていた金髪野郎との話し合いから読み取った上で、場を混乱させるのを防ぐために``北支部所属の請負人が南支部にいる``ことを隠すことに決めたのだ。
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