プロローグ:さすらいの巫女

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 彼が地に沈んだことで、武家屋敷の縁側は跡形もない。むしろ縁側を支えていた地盤すらへしゃげ、せっかくの武家屋敷は深刻な地盤沈下により、真っ二つに割れている。  スイカ割りならぬ、地盤割り。ものの見事に、彼は地面に縫い込まれてしまっていた。 「体が……動かぬ……?」 「爺の力、``殺意の波動``に干渉し、波動を逆転させた。しばらくすれば動けるようになろう」 「ふん……干渉を破壊する干渉に干渉する、か……ますます腕を上げたの」 「冗談じゃろうて。本気でなかったろうが」 「ふはは、そなたこそ。だがの、これで終わりではないわ」  造次(ぞうじ)の得意げな表情とは裏腹に、少女の表情は、より一層険しくなる。  そう、彼女は文字通り本気など出していない。ただ造次(ぞうじ)と名乗る老木が問答無用で挑んできたため、必要最低限の組手で応えていただけである。本当に警戒していたのは、彼ではなく―――。 「当主様、ご覚悟!!」 「今日こそは我らは花筏(はないかだ)巫女衆、その頭領としての責務!!」 「果たしていただきます!!」  少女と同じ顔、同じ服装、同じ体躯をした巫女たち。さっきまで造次(ぞうじ)の背後に控えていた女中らしき者たちが、一斉に動き出す。 「空ければ……」 「結びて界せ……」
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