0人が本棚に入れています
本棚に追加
2
「!!」
僕は反射的に、左へ思い切りサドルを回した。
ぶつかる寸前、なんとか男爵をかわす。
ほっとしたのも束の間、かわした先に大きなゴミ箱の山が__。
急ブレーキをかけたが間に合うはずもなく、
「わ、わわっ」
僕は、
ゴミ箱の群れに派手に突っ込んだ。
自転車は大きな音を立てて倒れ、反動で籠からジャージを入れたスポーツバックやお茶のパックや肉まんの入った袋が、ばらばらと飛び散る。
「・・・ってー」
自転車でまともにこけたのは小学生以来だ。
僕は制服についた埃をはたきながら起き上がろうとして、はっと我に返った。
そうだ。赤の男爵は!?
振り返ろうとしたその時、
「大丈夫ですか? 」
目の前に手が差し出された。
赤い手袋。
まさか。
ゆっくりと視線を上げると、
目の前に赤の男爵が立っていた。
暗くてよくわからないが、シルクハットの下の顔は鼻の部分まで布で覆われているようで、くりぬかれた部分から覗く両目がすまなさそうに僕を見下ろしている。
「これは大変申し訳ない事をしました。驚かせてしまったようですね」
男爵は僕の手を取って立たせ、怪我のない事を確認した。
近くでよく見ると、赤と言っても赤ワインの色に近く、マント、シルクハットとマスク、タキシードの赤色は微妙に違う。白色のシャツを別にすると手袋も靴も蝶ネクタイも、とにかく皆赤い。
本物・・・だよな。
僕の目の前に、赤の男爵がいる。
あの、大怪盗の。
最初のコメントを投稿しよう!