プロローグ

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プロローグ

 気が付くと、私は真っ赤な部屋にいた。いや、真っ赤というのは私の視覚がそう、捉えていただけで実際は炎に包まれていた。煙も充満し、私は呼吸もできずに喘いだ。  煙は容赦なく、私の呼吸する機会を奪っていく。そして、炎の熱波が私を炙り出す。私はグリルに乗せられた一匹の魚のようだ。  まだ、魚は人に食されるからいい。私はこのまま何も残らず、この世から消え失せる。完全な焼失だ。  そう言えば、私はリビングルームに入り、ソファに腰を落ち着けるなり、突然の睡魔に襲われて眠ってしまったのだ。どのくらい眠っていたかはわからないが、目を覚ましたのは暑さと息苦しさのせいだ。首の周りが絞められたように痛かったが、気のせいか?  火災で命を落とす場合、焼死ではなく、一酸化炭素中毒による窒息死の場合が多い。私は死ぬならば綺麗なままでいたい。しかし、死に方は選べない。  やっぱり、あの人が私を別荘に呼んだのは私を死なせるため?私は彼の罠にまんまと引っ掛かってしまった。  彼の別荘地は星空がきれいで、写真家の間では撮影スポットになっていた。特に秋から冬にかけて、澄んだ夜空に瞬く星々は神様からの贈り物のようで、今にも降って来るのではないかと思うほど、眩い。私もその季節の星々の虜になった。  彼は私が勤めている私立高校の副理事長をしていた。父親が理事長を務め、教育熱心な両親の下、手塩にかけられ育てられた。だからか、育ちの良さが身体全体からにじみ出ていた。サラブレッドのような彼に惹かれる女性は、五指に余るほどだ。  私がその中に入っているのは紛れもない事実だ。彼は別荘に招待した女性は君が二人目だと言った。最初に招待された女性がいたのだ。私はその時、最初の女性に嫉妬した。  星空がきれいだった。美しかった。都会では絶対にお目にかかれない。自然のプラネタリウムに驚嘆する人が多い。  吸い込まれる。いや、吸い込まれてもいいと思うほど、星空の下で人は無防備になる。神々の創造物に人間が抗えないのは、現在も昔も変わらない。
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