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2015年 畑山初
「するとですね。実行犯はわざわざ、事件現場に花を持ってやって来たわけですね」
カメラは残雪がある古瀬の山荘跡地を映した。
リポーターはマイク片手に神妙な顔つきで佇んでいた。
「私の勝手な解釈ですけど、供花をしに来たということは、自首したい気持ちがどこかにあったんではないでしょうか?」
リポーターはミソハギの写真のフリップを提示した。
「山荘に放火した犯人が供花した花が、このミソハギです。主に精霊花としての需要があります」
「軽井沢ではその花は採れるんですか?」
「はい。比較的採れます。主に湿地帯に自生しています」
スタジオにも実物のミソハギが用意された。赤紫色の花がスタジオの淀んだ空気を一掃した。
「きれいな花ですね。私は植物には詳しくないですが、目の保養になります」
すると、スタジオのコメンテーターが言った。
「ミソハギは九月六日の誕生花なんです。放火があったのも九月六日前後だと考えると、因縁めいたものを感じますね」
「実行犯は植物に詳しかったんでしょうか?」
「その辺は不明です。ただ、実行犯には死者を弔う気持ちがあったことは確かです」
リポーターは言った。
「でも、実行犯は実際に黒幕から六百万の金銭を受け取っていたわけですね」
「そうです。それが先払いだったのか、後払いだったのかは不明です」
「でも、金銭を受け取った時点でアウトですね」
「そう思います。金銭を受け取ったことは、契約が成立したことを意味します。実行犯は相当に金に困っていたんでしょう」
スタジオに切り替わる。私はコメンテーターに振った。
「率直に訊きます。実行犯はやったんでしょうか?」
大学で犯罪心理学を教えている白髪の男性が眉間にしわを寄せる。
「一連の流れを見ていますと、実行犯がやったのかはクエスチョンですね。人をそれも、見ず知らずの人を殺すというのは、途轍もないエネルギーを要しますからね。途中で怖気づいたとも考えられますね」
「私はね、まだ、実行犯には人の心があったことにホッとしています。だけどね、実行犯に殺しを依頼した黒幕、この場合、東洋学園の理事長とその面々ですね。こいつらは悪魔ですね」
まだ黒幕はわからないが、私は本音を言ってしまった。失言だとは思わない。視聴者からのクレームが来るのも、覚悟の上だ。
「婚約者を自分の別荘で殺す。この古瀬という男は怖いです。裏金の口封じ。まさしく権利欲にからめとられた愚者ですよ。こいつは」
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