第2話 引きこもり、暴れる

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第2話 引きこもり、暴れる

 一人怪人を倒した所で次の怪人が駆け寄ってくる。振り下ろされた斧を 何とかかわしたところで、物陰から見ていたこの町の住人が目に入った。 その人達は俺が怪人に襲われたのを確認してからあさっての方向へ逃げ出した。  それを見てふと両親を思い出す。こんな腐った引きこもりをよく生かしてくれたものだと。いやもしかするともう死んでいて、それで異世界に来たのかもしれない。 死んだ世界も楽園じゃなかった、なんて笑えてくる。    怪人の横っ面を思いっきり殴り飛ばした後、その手に持っていた斧を奪い取ろうとして止めた。本当はあった方が助かる確率は高いのだろうけど、殺めることに抵抗があった。 そんな感情が出た事にも笑えてきた。相手は自分の命を奪おうとして来ているのに何と言う偽善。殴っても殺めているかもしれないのに。  「あはははは」  俺は笑いながら背後に気配を感じ振り向くと、怪人は俺に驚き静止した。その隙を逃さず殴りつける。後何回これを繰り返せばこの騒ぎは終わるのだろうか。  ただ村を襲撃するだけに数は多いだろう。一人で戦い続けるには知恵が要る。 引きこもりだった所為で息が粗くなってきた。体力が無さ過ぎるにも程がある。それにも笑えた。 こんなに笑っているのはいつ以来だろう。 小さい頃に希望していたプレゼントを貰った以来だ。 あの時は嬉しかった。 これもプレゼントだとしたら喜ぶべきなのか。 生まれ変われるチャンスを与えられたのだとしたら、 それは望んでいた事なのかもしれない。 だから来たのかもしれない、 異世界に。 「テメェ、ヨクモオレノブカヲ」  振り返るとそこには先程までの怪人より三倍くらい大きな怪人が居た。 緑色の肌で筋骨隆々、肩当に交差させたベルトを付け腰と脛当てに鎧を付けて大きな斧を持っていた。 それには血がべっとりと付いており、殺戮の痕を感じさせる。仲間意識はあるらしく仲間がやられたのに気付き僕に復讐しようと寄って来たんだろう。 この世界の生態系は人間よりも強い物があると感じ、新しい事実を発見した喜びを感じた。 人間が最強なら僕はまた虐められるだろうから。 「だからなんだデカイの……やれるもんならやってみろ。引きこもりに怖いものなんて人間以外ない!」  とても威張れる様な事ではないが、啖呵を切って堂々として向かい合う。 その言葉に不可解だという表情を浮かべた恐らく怪人達のボスは、首を傾げた後襲いかかってきた。 俺は予想以上に素早かった斧の振り下ろしを、無様に転げながらかわした。 地面に突き立てられた斧を引きぬくのに手間取っている怪人のボスの膝に思い切り拳をぶち込んだ。  「ヒィ」  情けない悲鳴を挙げて倒れる怪人のボス。その隙を見逃さず、俺は急所があるであろう場所をけり上げる。 断末魔と共に泡を口から吹いて白目をむく怪人のボス。 巧い事行って良かった。 体力はそれほど消費していないのを確認し、雄叫びを挙げる。  すると遠くから怪人達がこちらを注目し、ボスが倒れているのを見ると一目散に逃げ出した。 引きこもりが怪人を退治したという、前の世界なら有り得ない結末を迎えたのだった。
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