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昼休み、二人はいつものように中庭で弁当を開く。
「わー! 相変わらず里ちゃんのお弁当綺麗ぇ、お母さん本当に料理上手だよねぇ」
「食べる? みちはが褒めるから母さん張り切ってたくさん作るんだよね」
「えーっ嬉しい〜! 里ちゃんママ最高〜」
みちはは里中に勧められるまま好物のだし巻きをうまそうに頬張る。
「みちは、土曜行きたいとこある?」
「え〜、どこかなぁ? 温泉とかもいいな〜」
「幾つだよ」
「えーでも、あの海の見える温泉とか良くない?」
「いーけど、高そうだなぁ」
「民宿とか、小さいところならお小遣いでいけるんじゃない?」
二人は恋人にランクアップしたばかりのまだまだ抜けきらないハイテンションでいつまでも会話が止まらなかった。
今までとは違う特別な関係に、お互いなりたがっているのが会話の節々から伝わる。誰もいない中庭では指を絡めあって、肩をくっつけて二人は誰にも邪魔されない特別な時間を増やしてゆく。
「また帰ったらメールするね!」
放課後は里中が塾のため、寄り道せずに通学路の途中でいつものように二人は別れる。
親友の時はそこまで強く感じなかった寂しさがみちはをふと襲って、少し切なそうに遠くなってゆく里中の背中を目で追い続けた。
いつまでも止まっているわけにも行かなくて、踵を返し、我が家へと進み出す。そして、ふと土曜のことを考えた。
「──お泊まりするってことは……えっち……とか、するの……かな」
改めて口にするとものすごく恥ずかしくて、みちはは一人赤面する。キスするだけで口から心臓が出そうなほどドキドキしたのに、それ以上のことをしたら自分はどうなってしまうのだろうかと、みちはは一人で信号機みたいにころころと顔色を変えた。
そんな幸せに浸る中、ふと背筋に寒気が走る──。
周りの空気が変わるのをみちはは感じ、緩んでいた顔を強ばらせながら気配の先を見た。
そこには、今朝見た男が立っていた──。
いつもと同じ通学路、同じ帰路。
なのに、時空が歪んだように、切り取られたように男の立っている場所だけが別次元みたいに異様に浮いて見えた。
男はあの琥珀色の瞳で真っ直ぐとみちはを見つめている。
その眼は冷たく、温度を感じない──まるで感情なんて備わっていないかのように、ガラス玉かのように、無機質で、異様──
人間の姿をしているのに、人間じゃないみたいに──
みちはは、おかしな緊張からくる唾をごくりと飲み込み、ゆっくりと口を開いた。
「俺に……何か用……ですか?」
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