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立ち昇る火炎柱、吹き荒ぶ熱風に揺れる足下、戦いの気配にルリエの心が高鳴り剣を握らせる。
吹き飛んできた鉄の破片、何かが燃えた物に対して素早くノゾミが反応し太陽光より剣を作り出して弾き飛ばし、対応しきれなかったものに関してはレイジが即応する。
「静かなる風よ響いて詠え! レフィタ・デル・テストルト!」
両手をパンっと叩き合わせてから前に腕を出すレイジの詠唱がルリエ達の周囲に旋風を呼び、風の壁となり一行を守り抜き爆風をかき消していく。
状況が混乱する中、ルリエは遠くの建物の上に立つジェスターの姿を捉えると、レイジの魔法が切れたと同時に一目散に駆け出して行き、ノゾミもすぐに後を追う。
「レイジさん達は避難誘導と連絡を! まだ敵がいるかもしれない!」
「わかった、こっちは引き受けた」
レイジが答えたのに合わせてノゾミも走る速度を上げてルリエに追従し、その後を愛竜マリィに乗るアルトが追いかけようとするがそれをレイジは制止する。
「レイジさん! 二人だけでは……」
「まずはこっちの仕事を済ませるのが先さ、新人の嬢ちゃんは俺らの竜車を隠してから避難誘導、アルトは支部へディスラプターが来たと連絡してから歌姫サマのとこだ」
沈着冷静にレイジは的確に指示を出し、ユーカは背筋をピンとし挙手式敬礼で応えてから竜車を走らせ、すぐに動かずムッとした様子のアルト。
と、レイジが遠くを見つめ緑の目の中に闘志を宿したのが分かると、足で軽くマリィの横を蹴って歩かせ始める。
炎と煙が舞い、列車がいくつか燃え、横転する中を一人残ったレイジが前に進むと、陽炎の中より姿を見せるのはディスラプターの魔法使いボイスだ。
「ったくまたおめぇかよ」
「貴様に舐めさせられた辛酸の数々を今日こそは返す! 死ぬがいい、レイジ!」
「そいつぁお断りだな!」
静寂からの最高潮、二人の魔法使いの闘志がぶつかり弾けた刹那、両者共に右手に魔力を集め詠唱する。
「屈強なる大地よ座して詠え! ランテロ・ジス・フィデル!」
「静かなる風よ響いて詠え! レフィタ・ジス・フィデル!」
土塊と岩で構成される蛇が迫り、それを右手より放つ螺旋を描く風をぶつけてレイジは粉砕し対処。
風と大地の魔法が互いを食い潰し弾ける中、破片を手のひらに浮かべた魔法陣でレイジは防ぎつつ距離を取り周囲にさり気なく目を向けた。
(まだ避難は終わってねぇが時間稼ぎすれば包囲網はできる、な……が、その為にボイスの野郎を止めねぇとな)
南大陸は他の大陸と比較して有事の備えが徹底し、騒ぎがあればすぐに歌姫選定委員会や統治者の私兵が飛んでくる。
レイジもそれを把握し、それまでにボイスを止めれば良いと考え必要な魔法詠唱をしようとする、が、まっすぐ突っ込んできたボイスに面食らってすぐに飛び退き、振り下ろされた鈍色の刃に服を少し切られつつ、身軽に着地しボイスを捉えた。
「面倒くせぇことしやがって」
眉をひそめたレイジに身体を向けたボイスの手には鈍色の剣。それが魔法により生成したものなのはすぐに理解でき、剣を向けて顎を突き出すボイスに警戒する。
「アイリア・デル・レッスト、貴様を殺す為に俺様は多くの魔法を習得し備えてきた! 今日こそは死ぬがいい!」
剣を振り被りながら迫るボイスにレイジは魔法を使おうとするも、それよりも速く間合いを詰めてきた為に切り替え魔法陣で剣を防ぎ止め、そこから防戦一方に追い立てられる。
(こう近いと魔法も使えねぇな)
素早く的確に突き出される剣舞をしっかり見て避け、防御し、時折体術で反撃しようとするとこれを防がれ、再び防戦となる。
レイジはある程度の格闘術の心得はあるが、ノゾミと異なり魔法使い。近接戦闘は専門ではないのもあり、ボイスのそれに苦戦を強いられる。
「どうしたレイジィ! 接近戦は苦手か!」
「てめぇ調子にのんなってんだ!」
黒のローブに加えて包帯を全身に巻くボイスの目が見開く中、レイジは避難はおおよそ完了したのをしっかりと確認し、目の前の敵に集中し闘志を燃やす。
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