戦いの新風

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 人助けするわけではない、敵を倒しにいくだけのこと。魔物がいるわけでもないなら尚の事、敵を倒しに自分は向かっている。  人の間をすり抜けるように街を駆け抜けるルリエにノゾミも追いつき、それを彼女が横目で確認したのを見て少し安堵し共に走り続ける。 「ルリエ様、何処へ?」 「敵を切りに行く、それだけだ」  本当はノゾミと剣を交えたいが、その為には全ての障害を排除する必要があるとルリエは考えていた。  ふと、何故そうなのかと思って考えを改め、自分が剣を取る理由を心の中で復唱する。 (生きる為に私は強くなる、今よりも強く……その為にも、こいつと……)  今までのそれに何故かノゾミの事が含まれていた。この男は自分が強くなる為に利用価値があるだけの存在、いずれ切り伏せて屈服させた時に自分の強さを証明できる。  だが、ルリエの脳裏に浮かぶのは自分に微笑みかけるノゾミの姿。  目を閉じ首を軽く横に振って目の前に集中し、彼と共に向かうのはジェスターが縁に立つ建物の前。  真下に来るとジェスターが気づいたらしく、器用に縁を進みながら高らかに名乗りを上げた。 「初めまして麗しき青の歌姫様と英雄様、本日はこのジェスターの……」 「氷結する祈りよ凍えて詠え、ティリス・ジス・バルド」  意気揚々と語っていたジェスターだったが、周囲が冷えたと同時に縁の上で宙返りをしてその場を離れ、目の前に現れる氷の塊にやや驚きつつも建物の下で舌打ちするルリエを捉えた。 「こ、この僕の名乗りがまだ終わってないというのに……!」 「くだらない」  剣を抜いてジェスターに切っ先を向けたルリエの紅い眼が輝き、凛然とした彼女の佇まいはノゾミとジェスターの心を奪い去る。 「弱い奴は生き残れない、死にたくなければ強くなればいい。それ以外の事など興味はない」  いつものルリエの言葉、それにはノゾミも少しだけ苦笑いをし、ジェスターはあまりの凛々しさと堂々たる姿に立ちくらみを起こしかけるが気を引き締め、咳払いをしてから手を後ろに腰に当てた。 「ま、まぁいいでしょう。そこの外階段を登ってくればこの僕が直々にお相手しましょう、歌姫様と正々堂々と決闘というのも舞台には相応しい」  剣を下げてジェスターの元へ赴こうとするルリエだが、ノゾミが腕を前に制止させ待ち受けるジェスターについて少し伝えた。 「ルリエ様、委員会の資料にあの男の事もありました。用意周到に罠を使って相手を弱らせるそうです、ですから……」  以前見た資料にジェスターの事もあり、ノゾミが伝えて自分が階段を登ろうとすると階段の上から飛び降りる影と気配を察知。  ルリエを軽く突き飛ばし、剣で振り下ろされるその攻撃を受け切り衝撃波を放つ。 「これで三度目だな英雄さんよ!」 「バルテット……!」  手にした得物を叩きつけるようにバルテットが押し切ろうとするも、何とか弾き飛ばしノゾミは剣を構え直す。が、すぐに地を蹴ったバルテットが激しい突きを何度も繰り出して防戦一方に追い込んでいく。  ルリエは舌打ちして魔法を使おうとするもジェスターが素早く何かを投げつけ、剣で飛ばされた手裏剣を叩き落としジェスターを見上げた。 「勇ましき剣を持つ歌姫様は一人では何もできない、ということですか? 悪党の僕くらい倒せぬ程に弱いとは、情けないですねぇ?」  神経を逆撫でするような明らかな挑発に、ルリエは特段何も感じはしないが淡々と外階段に足をかけ、ノゾミが鍔迫り合いをしつつ彼女の名を呼ぶと髪を揺らしルリエは目だけ向けた。 「私は強い、だから死なない。お前も戦って生き残ればいい」  そう告げたルリエは階段を器用に駆け上がっていき、ノゾミは目の前のバルテットの猛烈な攻めに足止めされつつも見送り、彼女を信じ自分の戦いに集中する。  
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