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階段を駆け上がり屋上へとやって来たルリエだが、上がってすぐに何か細い糸が体に触れて切れたと思うと左手側から何かが飛来し、しゃがんで避けて対応する。
隣の壁に刺さるのは二本の黒い小さな刃、俗に言う暗器というもの。注意して見ると、何もない場所に仮面の印がついた不自然な箱がいくつも置かれており、ルリエは目を細める。
(罠、か……)
ノゾミの情報が正しいものと分かりつつも、こんなものはまとめて破壊してしまえばいいとルリエは判断し、魔法詠唱しようとする。が、違和感を覚えて使うのをやめ、舌打ちをし手に力を込めた。
(魔法封じ……手の込んだものを……)
魔法封じは一定領域内に施す対魔法術。媒介となるものさえ壊せば使えるものの、ルリエはこの黒い箱に何かあるとしつつ、手出しすれば罠があるとすぐに見抜き、ゆっくり歩き始め敵を探す。
剣で進行方向に張られる糸を切断して罠を回避、しかし箱により道を塞がれているので進行方向が限られ、箱を退かそうにも触れて何かあると警戒し渋々間をすり抜けるように進む。
やがて箱のない少しだけ広い場につくとぱちぱちと拍手の音が聴こえ、仮面の男ジェスターが仰々しく頭を下げつつルリエを称賛する。
「流石は歌姫様、剣を持つということで脳筋かと思いましたが……やはり才色兼備文武両道といったところでしたね」
御託はいい、とルリエは一言答えてジェスターに切りかかる、が、彼が横にずれて現れる黒い箱が目に入り、直後に箱が開いて無数の小さな金属の玉が一面に転がり、ルリエも足を取られ転倒してしまう。
(姑息な……!)
静かに闘志を高め手をついて立ち上がろうとするが、その際に玉が潰れて何やら粘り気のあるものが触れ、手を引くも白い粘り気のある糊状のものが糸を引き身動きできなくなってしまう。
だがすぐに剣で強引に切り裂いて立ち上がり、周囲をキョロキョロ見渡すもジェスターの姿はない。
と、今度は黒い箱から白い煙が吹き出して視界を完全に奪い、その中から空を切る音を察してルリエは剣で飛来する刃を防ぎ止めたが、数歩下がった際に再び玉に足を取られて転倒。
何かが潰れる音に舌打ちして立ち上がろうとするが、マントが糊状のものに捕らわれやむなくブローチを外して脱ぎ捨て、立ち上がった所に左肩に刺すような痛みが走り、それが飛来してきた細長い刃が刺さった事によるものと理解し舌を打つ。
「さぁ歌姫様、この白煙の舞台でどのように戦いますか? このジェスター・ジョーカーは貴女様のように強くはありませぬが、手段を取らねば勝つ事も可能なのです」
語り部のように話すジェスターが追加と言わんばかりにルリエの後方から暗器を放ち、これを足下に注意を払いつつ対処されるがすぐに別の刃を放ち左腕へ突き刺し、少しずつルリエの傷が増えていく。
魔法が封じられ視界も閉ざされ身動きも自由にできず、ルリエはそれでも剣を手に持ちこの状況を制する為、ひたすらに思案し集中力を高めていた。
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