仮想空間

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 今日は火曜日だ。昨日は九時まで残業したが週の初めから頑張ると週末にどっと疲れがくる。琉太はインストールを明日に延ばして帰る準備を始めた。メモ帳や筆記道具を片付け、細目に結んだネクタイが曲がってないか確認をし、立ちあがるとフロアの出口に向かって歩く。ロッカー室へ行ってカシミアのコートを羽織りノートパソコンの入ったビジネスバッグを持った。  十一月ともなると寒い。駅に向う途中のカフェに寄ってホットココアを頼んだ。窓に向いたカウンター席に座りパソコンを立ち上げる。自分のパソコンで組んだプログラムのソフトに九時にご飯が炊きあがることと、お風呂が四十度になるよう打ち込んだ。それから今週末の会議で発表するレポートを修正した。CGソフトは人間もリアリティがなければいけない。単なるCGソフトではなくてAIを使って本物の人間が存在するような仮想空間を作り上げたい。  三十分ほどカフェに居て駅に向かう。改札を抜けホームへ行くと電車はすぐに滑りこんできた。車内はそこそこ混んでいる。琉太は一番ドアに近いところの吊り革に掴まって電車の揺れに身を任せる。琉太の住むマンションは電車で五十分だ。二年前に大学を卒業して郊外の広いマンションを借りた。今二十五歳だから二年以上住んでいる。一人暮らしも長くなると案外楽だ。  電車は二十分も経つと座る場所が空いてきた。琉太は五十代くらいで会社員風の男性と大学生くらいの女性の間に座った。女性はコンピューターの本を読んでいた。琉太はスマホを出してメールやラインを確認する。大学生のとき友達だった康介(こうすけ)とは今でも頻繁に連絡を取り合っているがメールもラインも来ていなかった。
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