1.彼と

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「わぁ!」 私が、高校2年生の始業式に遅れそうになって走っていたら、誰かとぶつかった。 もうっ!私は早く行きたいのに。 「すみません」 頭の上から声が降ってきて、私は思わず顔を思いっきり上げる。 「え……。響君!?」 「え……」 なんと、私が聞いた声はいつも目覚めた瞬間に聞いている、響君の声だったのだ……。 一瞬耳を疑ったけれど、帽子をかぶり、マスクをした顔でほんの少しだけ見えた目は、彼のものそっくりだった。 少しタレ目で、二重。だけど、しっかりしていて、パッチリしている。 私が何度も見てきた、あの目とそっくりだったのだ。 「Akaのファンで、最推し響君なんです、私!よかったら、連絡先交換しませんか?」 私は、ダメ元で聞いてみる。 「プライベートなんだ、って言いたいところなんだけど、ぶつかっちゃったお詫びもしたいし、キミが何回もDM送ってくれてるの知ってるよ。結月花(ゆつか)ちゃん」 急に、私の本名を呼ばれてビックリする。 「え、なんで名前」 「俺の少ないリスナーさんだからね。ペンネーム、ゆづ、でしょ?あと、LINE画面見えてるよ」 「あ、すみません。じゃあ、LINE交換しましょ!」 夢のようだ。推しとLINEを交換できるなんて。 「じゃあ、またLINEするね!結月花!」 「ありがとう!」 なんて、夢のような時間だったのだろう。 この時、私は時間に遅れそう、ということをすっかり忘れていたのである。 先生と親にむっちゃくちゃ怒られたが、響君とLINE交換した、という事実が嬉しすぎて、話が入ってこなかった。
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