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お弁当
ここは、株式会社山ノ内。社長である山ノ内奈月彦が統括する、
いわゆるブラック企業だ。
というのも、社長の奈月彦は好奇心、行動力、生命力、発想力、体りょ
…を兼ね備えており、新しい事業を思いつく度社員にぼんぼん仕事を投下しているのである。
給料も出るには出るが、何を思ったか奈月彦は社内に大量の金柑を置いて誰でも食べられるようにしているので、その設備の費用に回されて月々数万円ほどが社員の手に届く前に消えている。
そんな(株)山ノ内の社員の一人が、垂氷雪哉だ。淡い茶髪の頭のきれる男で、蟬を見るとすごく嫌そうな顔をする。
とある平日の昼休み、雪哉は社内のフリースペースで昼食を食べていた。隣にいるのは、同僚の熊谷茂丸である。大柄で優しそうな顔の雪哉の友人だ。
「お前の弁当、今日も美味しそうだなー。毎日お前の母ちゃんが作ってくれるんだろ?」
「茂さんだって、お母上の手作りでしょ?今食べてるその肉とか、すごく美味しそうですよ」
「まあ美味いけどな。お前の卵焼きとか、見てるといっつも腹減るんだよ」
「これを見るときは茂さんも弁当食べてるときじゃないですか」
「うーん、食べてても腹減るんだよな…」
「じゃあこれ、ひとつ食べます?そのかわり僕が茂さんの肉を一枚もらうってことで手を打ちませんか」
「おっ、いいな。交換こだな」
二人でもぐもぐ幸せそうにしていると、これまた同僚の西紀田明留と楠千早がやってきた。
「やあ、明留と千早じゃないですか」
「ああ。お前たちもここで弁当を食べているのか?」
「そうそう。それで今、雪哉とおかず交換したんだけどさ、うめえよこいつの卵焼き」
「茂さんの肉もすっごく美味しいですよ」
「…楽しそうだな」
「千早も分けてもらったらいいんじゃないか?僕も他の人の弁当を食べてみたいし 」
「そうだな。仲間に加わるとするか」
明留と千早も近くに腰を下ろし、弁当を開いた。明留の弁当は小さな重箱のような弁当箱に豪華な盛り付けがされ、千早の木の弁当箱には質素なおかずが綺麗に並んでいた。
「お前、ご飯にうなぎなんて混ぜてるのか?贅沢だなぁ」
「残りものだよ。母上も姉上も料理上手だから、残り物でも美味しくなる」
「もとの素材の良さもなかなかのもんですけどねぇ」
「千早は、結ちゃんに作ってもらってるんだったか?本当に良い子だよな。それに、すごく美味しそうではないか。その鮭とか」
「…当然だ」
「みんなうまそうだし、全員が全員のおかずをちょっとずつ食べるってことで良いよな?」
「そうですね。まずは誰の弁当からにします?」
「…明留のは味が濃そうだから最後がいいんじゃないのか」
「何だその鼻につく言い方は…」
「じゃあ、薄味の千早からですね」
「やめろ。結の料理がまずいように聞こえる」
「僕にもそう言ったじゃないかお前!」
「わかったわかった。じゃあもう、じゃんけんにしようぜ」
……
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