第3話 世界がまた1つ

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第3話 世界がまた1つ

 私はソフィアちゃんの家にやってきた。  家と言うよりあばらやだ。  壁が剥がれ屋根も所度、抜け落ち始めている。  この家なら家賃が掛からなそうだ。  病気になれば働けない。  収入が無ければ、支払が出来ない。  食事は摂れているのかしら? 「お母さん、ただいま!」  急に元気な声で、ソフィアちゃんが家の中に声を掛ける。 「ソフィアお帰り。今日はもう、港のお手伝いは終わったのかい?」  中に入ると30過ぎの、女性が粗末なベッドに横たわっていた。  いいえ、本当はもっと若いはずだわ、栄養が足りずに痩せ老けて見えた。 「うぅん、今日はもうあがって良いて言われたの」 「お前はまだ幼いから、あまり役には立たないだろうけど。それでも使ってもらえるんだから頑張ろうね」 「頑張ってるよ、お母さん」 「私の体が治ればいいけど。いったいどうしたんだろう、この体は」 「治るよ、母さん。きっと治るから」  ソフィアちゃんは涙ぐむ。  お母さんに心配を掛けない様にと、わざと元気な声を出していたのね。 「ソフィア、そちらの方は、どちら様だい?」 「パメラお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんは回復魔法が使えるから、お母さんを見てくれるって」 「回復魔法ですか。私はソフィアの母で、エリーナです。ですが見ての通り我が家には、お礼できるお金がありません」  女性は慌てて身を起こした。 「良いですよ、そのままで。私が見たいだけですから」 「いえ、でも、そんなこと」 「準備があるので、少し黙っていてもらえますか」 「は、はい。分かりました」 【スキル】情報共有!  これは離れている家族と一定の時間なら、意思の疎通ができるスキルよ。  世界の事が何でも分かる、旦那様の能力【世界の予備知識】にアクセスする。  ちょっと借りるわね、ダーリン。  接続開始、ロ ード・10・・・…80、90 … 読込完了! 「では始めるわね」 【スキル・鑑定】発動!  名前:エリーナ  種族:人族  年齢:27歳  性別:女  私のダーリンは凄いわ。  転移者で女神ゼクシーの加護持ち。  5種類の生活魔法が使え、それを発展させた魔法が使える。  それに異世界言語、鑑定、カスタマイズ可能な時空間魔法ストレージ。  どんな時にも冷静でいられる【沈着冷静】や【高速思考】も役に立つわ。  そして操作は簡単、私は画面をタップする。  人が見たら何もない空間を、叩いているように見えるだろう。 【詳細情報】健康状態 『手足などの抹消神経に障害あり、運動麻痺、神経痛発症中』  伝染病と呼ばれる病気の原因はウイルスと言われるものだなんて、この知識を得てから初めて知ったわ。  だからこの世界には治療法がない。  知らないから対策が出来ず抗菌薬や、抗生物質と言われるものが無い。 【世界の予備知識】で得たことは驚く事ばかり。  この世界は化学や医学が圧倒的に遅れている。  そして私がやろうとしていることは、これよ! 「エリーナさん、口を開けて」 「は、はい」 【ストレージ!】  私はエリーナさんをストレージで包んだ。  そして口から体内に侵入し、有害なウイルスを探していく。  人には役立つ菌と有害な菌がある。  それをストレージで収納しながら、【世界の予備知識】で照らし合わせて有害な菌だけを収納していく。  頭が付いてこないわ。  アクセス…高速思考  接続開始、ロ ード・10・・・…80、90 … 高速思考、読込完了!  ふぅ、これで頭の処理能力が増したわ。  凄いわ、こんな高速で物事を考えられるなんて。  見ている世界がまた1つ開けたわ。  それ、あと少しね。 「「「 ウォーターヒール!! 」」」  パメラお姉ちゃんが、お母さんの口に手を翳し何やら始めた。  お母さんは、はあ、はあ、と息が荒くなる。  お姉ちゃんも汗が噴き出て、とても辛そうだ。  そして「ウォーターヒール」の声が、聞こえたかと思うと体が水色に光る。  右手に光りが集まっていく。  白銀色のお姉ちゃんの長い髪が、風も無いのに舞い上がる。  きれい。  とても綺麗だと私は思った。
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