純然

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純然

金色の落葉が、きっと一面に降り積もっていることだろう。 年甲斐もなく高揚している自分が、なんとも可笑しいのだが仕方ない。 一昨日からの雨が夜中のうちに止み、やっと行動することができた。 天気予報を再確認、大急ぎで荷物を車にまとめ、日の出る前に家を出た。今回の積荷も重かったが、それに反して私の足取りは軽かった。 自分の大人げなさは自覚しているものの、高まる気持ちは抑えきれない。ついついアクセルにも力が入ってしまう。 車を止めて山に入ると、雨上がりの青空と澄み渡る空気が想像以上に爽快だった。紅葉の広がるその風景は秋晴れをいっそう際立たせている。 何回来ても、ここの景色は素晴らしい。 人里離れた秋の深山は、呼吸する度に身体が内側から洗われていく様だ。 途中「熊出没注意」の看板をそこかしこで見かけた、危険が多い所なのだろう。しかしそれも、私にとっては、ありのままの自然が残されている証だと嬉しく思えた。 世間の喧騒から離れ、木々のざわめきや、かすかに聞こえる虫の音に耳を澄ますと、自分がこの自然に溶け込んでいくのを実感できて、とても心地好い。 もっと早くここを知っていたら良かったのに。 この場所を選んだのは、景色に魅入られただけではない。土壌が粘土質で柔らかく、非常に掘りやすいのだ。 そして今日も、腰まで隠れる程の穴を掘り終えた。 リュックの口を開け、掘りたての穴に中身をぶちまけると心までスッキリした。札束は思いの外重く、1枚が約1gだから1億だと10kgにもなる。 それにしても熊という生き物は下品でいけない。隣の穴が掘り起こされてしまっている。せめて骨まで完全に食べきるか、犬の様にちゃんと埋めていってくれれば良いものを。 先週掘ったその穴には、この金に魅入られ、人が変わってしまった、かつて妻だった物が埋めてあったのだが、そこら中に散らばってしまっているではないか。全く、仕事を増やさないでほしいものだ。 しかし、今投げ捨てたこの金も、同じく残骸なのだと思うと妙に可笑しかった。
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