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回帰
かつて私の勤めていた会社が、存続の危機を脱するために法の外の手段を取った。
その残骸であるこの金は、責任者の汚名と共に法外な退職金として私に押し付けられた。
とは言え私にとって、それ自体は大した問題ではなかった。
社長直々に懇願され、私ごときが役に立てるのならばと快諾した。そして誰に見送られる事もなく会社を去ったのだが、ふと、言い知れぬ空しさに襲われた。
かつて仲間だと思っていた者達は、何も知らずに今日も仲良く仕事に励んでいる。
私がそこに居なくても。
いや、居ないことに気付いてさえいまい。
当然のごとく手に入るその給料が、どんな方法で支払われているかなど、誰も考えはしない。
それでも、家に帰れば妻が待っていてくれた。薄給に文句も言わず、共に生きてくれた彼女は、私の支えでもあった。
子供には恵まれなくとも、ささやかで確かな幸福が、私達の間には有ったのだ。
しかし、金が人を変えてしまう事を、彼女から教えられる日が来るとは思いもしなかった。
妻がひっそり持ち続けた鬱憤は、大金を目にして一気に溢れ出した。
彼女は贅沢を覚え、我慢を忘れ、そして遂に家にも帰って来なくなってしまった。
私には、何も無くなった。
「残骸仲間…だな。」
思わず口から出た言葉が滑稽で、笑いが込み上げてきた。誰に遠慮する必要もないので、心のままに声を上げて大笑いした。
その声は遥か遠くの山々まで響き渡り、紅葉の木々と、降り積もる落葉に吸い込まれていった。
さて、自分の穴を掘らなければ。
この美しい原風景の中、自然と一体化し、回帰できる事を幸せに思いつつ、私は再びシャベルを持った。
完
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