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 車のエンジンが停止したと同時に、ぼくは外へと飛び出した。  天気は晴れ。  カラっとした空気。  ちょうどいい温度。  (ついに……)  逸る気持ちを抑えられず、ぼくはその場でクルクルと回った。  (ついに、この日が来た!)  嬉しくて、あはは、と笑い声が漏れる。  頭の中が幸せでいっぱいだった。  「直樹、こっちに来なさい」と後ろからママの声。  ぼくは回転を中止して、ママのほうへと向かう。近くにいたパパが車のトランクを開けて、中から軍手とヘルメットを取り出した。  「ほら、自分で着けてください」とパパは言い、ぼくに青いヘルメットを手渡した。  「うん!」ぼくはヘルメットを受け取ると、その場でぴょんぴょん跳ねた。「パパ、早く、行こう!」  「落ち着いてください」パパは微笑むと、ママへ顔を向けた。「……と、言っても落ち着けないのが子供なんだよね」  「まぁ、ひさしぶりだからね」ママは腕を組んだ。「最後にここにきたの、いつだっけ?」  「ちょうど一年前……、去年の夏だね」  「もうそんなに経つのかぁ。早いなぁ」ママは目を細めた。「来るたびに思うけど、この公園、混みすぎよね。入場者数に制限かけてほしいわ」  「ただの公園じゃなくて、アスレチックのある公園だからね。子供からの人気が、やっぱり凄いんだよ。回転する丸太の上を歩いて渡ったり、湖の上に浮かぶ足場に飛び移って、ゴールを目指したり……」パパは微笑む。「正直、こういうの、大人になってもワクワクするよなぁ」  「どうでもいいけど、今年は水に落ちないでよね。前回、本当に恥ずかしかったんだから……。着替え持ってきてなかったから、運転席ずぶ濡れになるし……」  「もう! パパもママも、早く……!」ぼくは叫んだ。  「ああ、わかりましたよ」パパは苦笑する。「じゃあ、行きましょう」  ぼくは、パパの手を引いて走り始めた。
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