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森はこの事をツイッターで拡散するべく仲間達にツイートすると、結局、前に千円出した者が皆、二千円上乗せする事になった。で、三百万円用意できた旨を久美子に電話で伝えた。
「そう、良かったわ。一人につき三千円。じゃあ丁度百人じゃない。私、百人の前で脱がないといけないの?」
「いや、百人入ったらアトリエが寿司詰めになっちゃうし、第一近くで見ないと細かく描けないから二十人ずつで予定してるんだ」
「じゃあ、何、5回もやるの?」
「そういう事になるね」
「何よ、それじゃあ1回につき六十万円ってこと?それじゃあ安すぎるわ!それじゃあ詐欺じゃない!」
「さ、詐欺?」
「だって一回だけだと思ってたもん。それが五回やれって、而も三百万じゃなくて六十万でやれっていうんでしょ。れっきとした詐欺じゃない!」
「あっ、成程・・・」
「何、納得してるの!あなた!どう値切っても一回百万よ!これ以上負けられないわ」
「えっ、そうすると五百万!」
「そうよ。一人につきあと二千円よ。安いもんじゃない。考えてもみてよ。私の生ヌードを五千円で見させてあげよう、描かせてあげようって言うのよ。この私が!」
「た、確かにそう言われてみると、そ、そうだな。そう言って皆を納得させるよ」
「そうしなさいよ」
「わ、分かった」
久美子はその都度、回転レシーブのように機転を利かし、森を思うままに操る事となって自分の望み通り事が運んで愈々武蔵野美術大学鷹の台キャンパス四号館油絵学科アトリエにて自分のヌードデッサンの開始時刻がきた。控室からバスロープだけ纏った状態で登場して白いシーツを被せた台に上がった。度胸の有る彼女はぐるりを見渡すと、男が圧倒的に多い。やはり私の裸見たさに男ばかりが協力したんだと久美子は思った。そして目が合った男を悉く睨みつけ、真っ赤に赤面させて行った。森もそうでイーゼルに置かれたキャンバスに一旦、気弱げに目を落とした。
デッサンの時間はたった15分。瞬時に全体を捉える力を養う為で短時間にする事でデッサン力を向上させるのだ。
森は興奮の余り久美子の肌の白さとキャンバスの白さとが同一に見える程、錯覚し、自分の技量が確かなら輪郭と陰影だけ描けば久美子その物になるのではと思うと、尋常でなく興奮すると共に腕が鳴った。そして久美子に目を向けると、彼女は高速で脱皮するようにするするとバスロープを潔く脱ぎ落した。
その瞬間、男達の目が恒星のように一段と輝いた、次の瞬間、男の誰もが生唾をごくりと飲み込んだ。
唇が赤い薔薇なら乳輪はピンクのダリア。それらの中心点を線で結ぶと夏の大三角形が出来上がる。あと唇の中心点と目の中心点を線で結んでも乳輪の中心点と臍の中心点を線で結んでも夏の大三角形が出来上がる理想的な比率。他の部分も女体の黄金比を実現している。つまり乳房と言わず腰と言わず臀部と言わず何もかも理想的なカーブを描き、八頭身で均整が完璧に取れているのだ。これなら美貌が引き立つ筈だ。
予め取り決めたポーズを取る久美子は自信満々だ。皆が自分の美しさに圧倒され魅了され陶酔しているのが手に取るように分かる。
確かに皆、真剣だ。私を至高の美術品として描いてくれている、その認識が恥ずかしさをほとんど消し、寧ろ見られる事が快感になって来た。
十五分はあっという間に終わった。まだ見せていたい位だった。これだけで百万、パパ活なんて何時間も愛してない男と付き合って大人関係ありでも精々三十万なのに、これは病みつきになるかもと久美子は思った。そりゃそうだ、体を穢さずに済むし、短時間で何倍もの報酬が貰えるのだ。
デッサンの授業が終了後、久美子はどんな絵に仕上がったか、気になって皆に裸を見られた恥ずかしさを押してアトリエでまだ陶酔境に入った儘、自分の席を離れず素描に余念なく熱心に手を加える森の所へやって来た。
「うわあ!あなた、ほぼ正面だったからお毛々までばっちり描いちゃって恥ずかしい!やだー!」
「あっ、はは、いや、もう、鼻血もんだったよ」
「而もこんなリアルに!あなたうますぎ!恥ずかしい!やだー!」
「僕なんかよりもっと上手い奴もいるよ」
「ほんとに?でも、これ、ほんとにリアル。自分で言うのもなんだけど、とても美しいわ!」
「だよね、だから僕、もっともっとリアルになるよう手を加えていつまでもいつまでも君と向き合って行くよ」
「えー!私を手に入れたみたいに言ってる~」と久美子が言った所へ友利学部長がやって来た。彼は久美子と顔を合わせ、にやりとして、「ご苦労様」と言って彼女に会釈されてから森の絵に見入って、「んー、上手くなったな、森」
「有り難うございます」
「特にアドバイスする所はないよ。やはり瀧田さんが美しいからいつもより集中できたんだろ」
「はい、学部長。全く仰る通りです」
「そうだろう。ハッハッハ!」と友利は満足そうに笑った。「瀧田さん、有り難う。今回のデッサンの授業の成果は計り知れないよ。瀧田さんのお陰だ」
「いえ、私こそ、報酬を沢山いただけましたから御礼を言いたいくらいですわ」と友利との仲を森に知られまいと急に言葉遣いを改めた久美子であった。
「うむ。ま、アドバイスする所はない事だし、瀧田さんにはこれからもお世話になる事だし、どうです、折角だからキャンパスを案内しましょうか」
「ええ、宜しくお願いします」
という訳で友利は久美子をアトリエから誘い出す事に成功した。残された森は、ついて行きたい気持ちもあったが、早く絵を仕上げたい気持ちが勝って久美子の事にかまけながら猶も手を加えて行った。
「これからも世話になるって友利さん、勝手に決めないで」
「ハッハッハ!いや、少なくともあと四回世話になるしな、ほんとにどうだ、パパ活なんか辞めてモデルに専念してみてわ」
「確かに友利さんは大人の関係を求めないし学生の為になるからそう勧めるんでしょうけど」
「うむ。こうやって久美ちゃんと後ろめたさなく話せるようになったしな。わしはパパ活アプリから退会する事に決めた。久美ちゃんも退会するが良かろう。そしてうちの専属モデルとなるのだ。ムチャクチャ稼げるぞ」
「そうね、確かに・・・」一ヶ月に五日として一日十五分働くだけで五百万!スゴッ!むっちゃいい!と久美子は心中で快哉を叫んだ。正に彼女は類稀なる美しさを武器に目前にある美術館と図書館が一体化したアートな建物の本棚の森のように見える構造壁の無数の棚毎に札束を詰め込める位、金を稼げる気がするのだった。
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