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食事に行けば芸能人御用達の隠れ家的名店に連れて行ってくれて鉄道旅行に行けばグリーン車一両分の乗車券、特急券、グリーン券を全て買い占めてくれる、そんな資産家の亀頭と愛人契約を結んだ久美子は、超遣り手のパパ活女子だ。
週に3から4回デートし、月収は100万を優に超える。パパは鬼頭以外にも4人いて亀頭には劣るが、いずれも太パパで月額1万円と高額のパパ活アプリを利用している。
勿論、久美子も女子だから無料で彼らと同じパパ活アプリを利用している。年収一千万以上のハイスペックな男性達が登録しているのが決め手となった。
彼女がパパ活を始めたのは二十歳になってからだ。それまで高校を出てからOL一本で頑張っていたが、安月給で働かされセクハラする上司にお茶くみとか馬鹿らしくなっていた所へ持って来て生理的に全く受け付けない上司に5諭吉でどうだとせがまれた事が切っ掛けとなって掛け持ちから専業パパ活女子となった。
而して新宿の高級マンションに住むまでになった久美子は、上京して以来、OL時代もオフィス街で男の誰もが振り向く美貌の持ち主で肌は茹で卵の白身の如く白く艶々ぷりぷりぷにぷにしていて22歳になった今では磨き抜かれたダイヤの如く美しさの絶頂期に入った。だからプロフィール写真を見ただけで殿方の誰もがデートを申し込んで来る。大抵、体を求めて来るから幾ら体があっても足りないような事になると、流石に嫌だから選りすぐりの5人に限定しているが、私なら玉の輿に乗れるのだから態々複数の男に体を売って稼がなくてもと近頃思うようになった。
そんな折、パパの一人である西尾と待ち合わせする為、市ケ谷駅2階のスターバックスのテーブル席に陣取ってモーニングを食べている時だった。見覚えのある男が店内に入って来た。彼はカウンターでオーダーしたビバレッジをコンディメントバーで無料カスタムした後、何処にしようかとテーブル席を見廻して久美子と目が合うと、その途端その場に釘付けになった。程なく彼は相好を崩して久美子に歩み寄った。
「やあ!瀧田じゃないか!」
「あ、あなた森君ね!」
二人は高校三年の時、同級生で当時の面影を認め合ったのだった。
久美子は最初こそ森と知って懐かしくなったが、西尾を持っている手前、極まりが悪くなった。一方、森は久美子が大人になって一段と綺麗になったのを認め、今や武蔵野美術大学の四年生で造形学部油絵学科に所属しているから女性モデルのヌードデッサンをする事もある手前、彼女のノースリーブシャツから覗くほっそりした腕の卵肌が何とも魅惑的に目に映じた。で、元々社交的で人懐っこい性格なので委細構わず向かいの席に座った。
「いやあ、奇遇だ。むっちゃ久しぶりだねえ!」と言われ、どう追っ払えばいいの?と久美子は迷惑がった。
「君もスタバでモーニングかい?」
「そ、そうよ」
「君もトールか。おまけにエスプレッソとハムエッグサンドじゃないか。偶然ってこうも重なるものかなあ。これは絶対特別な縁だよ」
「そ、そうね」久美子は西尾が今に来るかと思うと、とても落ち着いていられなかった。
「偶然と言えば、僕さあ、武蔵美って分かる?」
「武蔵野美術大学の略でしょ」
「そうだよ。よく分かったね」
「私、上京してすっかり東京っ子だもん」
「あっ、そうなんだ。僕も上京して武蔵美に通っててさ、今日は友達に会いに市ケ谷キャンパスに行くんで、その前にここで朝スタバする事にしたんだけど、上京以来、初めて会ったね」
そう言われた丁度その時、スマホが振動した。メールを受信したのだ。
「朝になって急に社長にゴルフに誘われた。全く気まぐれで困る。勿論久美ちゃんとデートしたいけど、社長の誘いを断る訳にはいかない。すまない。来週の土曜にしよう」
西尾とディズニーランドへ行く予定だったのだが、これでパパ活している事がばれずに済むと久美子はほっとした。
「メールかい?ひょっとして彼氏から?」
「違うの。友達とディズニーランドに行く予定だったんだけど、風邪ひいたらしくってドタキャンされちゃった」
「そっか。待ち合わせしてたんだ」
「そう」
「じゃあ、もう予定がなくなった訳だ・・・」こうなりゃ絶対この再会を無駄にしたくないと森は思った。「あの、ここで待ち合わせしたって事はこの辺に住んでるの?」
「そうよ」と久美子は答えると、場所を聞かれまいと機転を利かして、「私、OLしてるの」と咄嗟に嘘をついた。
「そっか。会社でも持てるんだろうね」
「そんな事ないわ」
「そんな事ないでしょ。そんなに綺麗になったのに」
「そんな事ないわ」
「そんな事あるよ」
「だって私、子供の頃から真っ白って男の子達に言われてからかわれたり気持ち悪がられたりしてたもん」
「いや、子供の頃の話なんか急に持ち出されてもねえ・・・」と森が失笑気味に言うと、久美子はズバリ言った。
「私に彼氏がいるか知りたいんでしょ」
「あ、ああ」と森はどきんとして答えた。
「いないわ。高校の時だって誰とも付き合ってなかったのよ、知らなかった?」
「いや、そう言えば・・・」
「そうよ。私、恋した事ないの」
「マジで?」
「そう、好きな人が今もいないし・・・」
「ふ~ん、そうなのか・・・」という事は処女なのか?確かに肌同様穢れがまるで感じられないと森は納得してしまいチャンスだと思った。で、褒めようと、「それにしても」綺麗だと言いかけた森は、初めて照れて俯くと、モーニングに全く手を付けていない事に気づいた。「あっ、僕、全然食べてないや」と照れ隠しに言ってから食べだした。久美子も笑いながら食べだした。
やがて思い出したように森が言った。
「あっ、そうだ、こうしちゃいられない。僕、どうしてもこの儘、別々になりたくないんだ。せめて電話番号だけでも教えてくれないか?」
「私と付き合いたいの?」
「も、勿論」
故意に彼氏がいないと正直に言ってどう出るか楽しんでいた久美子は、暇潰しには良いかもと思い、出たくなければ着信拒否設定にすれば良い事だしと電話番号を教えた。
歓喜してスマホに登録した森も電話番号を教えると、久美子は自分からかける事は絶対ないだろうと思いつつスマホに登録した。それを見てヤッター!と森は心中で快哉を叫んだ。
「僕、国分寺の大学寮に住んでるんだ」
「そう」
「瀧田もこの辺に住んでるそうだけど、具体的に何処に住んでるの?」
何が具体的によ!教えてたまるか!全く遠慮なく不躾に訊いて来るわねえと久美子は少なからず苛ついて直接答えず、「あなた、大学行かなくても良いの?」と聞き返した。
「ああ、まだ全然早いよ。モーニングがてら読書する積もりだったんだ」
「そうなの」
「ねえ、何処に住んでるの?」
「あなた、しつこいわよ」
「えっ」
「私、しつこい人嫌いなの」
「あ、ああ・・・」とお喋りな森が絶句してしまうと、久美子は棘のある口調のまま冷たく言い放った。
「私、太っ腹のお金持ちが好きなの。だから私の分も払っといてね!」
「えっ」
「私と付き合うにはお金が必要なの。あなたは学生だから駄目なの。ふふ」と突っぱねる為に口を滑らしそうになって久美子は立ち上がり、「あの、まだ話したい事があるんだ。あともう少しだけで良いから居てくれよ」と嘆願する森を残して只で付き合うなんて真っ平御免だわと言わんばかりにすたすたとレジに向かった。
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