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第5話 出会いの日(中編)
「ちょっと待って!? あれモンスターだよ、ドロシー!」
「でも……。困ってる人は見過ごせないよね……?」
「だから、人じゃないってば! あんた、モンスターまで助けるつもり!?」
リリアンとドロシーが騒いでいる後ろでは、年長者の二人が、冷静な意見を口にしていた。
「黒ローブについては、後で考えるとして……。単眼巨人と岩石魔人、あの三匹が倒すべき敵なのは、間違いないでしょう?」
「クラリスの言う通りだ。相手は強敵、ならば俺たちも、最初から全力全開で行くぞ!」
「待て! 女子供が敵う相手ではない! 無駄に命を散らすことは……」
背中を血で滲ませたグリフベックが、大木の幹に手をかけながら、ヨロヨロと立ち上がる。
しかし、その言葉を聞き入れる者は一人もいなかった。
「お前の止めは後回しだ。邪魔者を片付けてからゆっくり始末してやるから、おとなしくそこで休んでろ!」
「そうだ、そうだ。あのグリフベックも、こうなったらもう形無しだぜ!」
単眼巨人と岩石魔人たちも、ドロシー隊の少女たちへと向かっていき……。
四人対三匹の戦いが始まった!
「俺の奥義、見せてやる!」
「けっ! 女のくせに、勇ましいこと言いやがって!」
紫髪のカトリーンの相手は岩石魔人。二匹のうち、先ほどからペラペラと喋っている方だ。
「見たところ剣士のようだが……。そんな細い剣じゃ、俺の体にゃ傷一つつけられねえぞ!」
岩石魔人が吠える。
既にカトリーンは、左右の腰に差した剣を二本とも抜いていた。どちらも冒険者としては標準的なものであり、決して細くはないのだが……。
岩石魔人は、己の岩の体に絶対の自信を持っているのだろう。カトリーンとて、見るからに硬そうな肌をしたモンスターに、無策で挑むつもりはなかった。
「それはどうかな?」
口元にニヤリと笑みを浮かべてから、呪文を詠唱する。
「アルデント・イーニェ! イアチェラン・グラーチェス!」
「何っ!? てめえ、剣士じゃなく魔法士……。いや、魔法剣士だったのか!」
驚きの声を上げると共に、ガードするような格好で両手を前に突き出し、岩石魔人は身構えた。カトリーンの唱えた弱炎魔法カリディラと弱氷魔法フリグラが、自分の方へ向かってくると思ったのだ。
しかしカトリーンの狙いは、モンスターそのものではなかった。
彼女が手にする二本の剣の刀身が、それぞれ炎と氷に包まれる。
武器に魔法を纏わせて攻撃力を高める。これぞ魔法剣士の戦い方だった。しかもカトリーンは二刀流で、それぞれ属性の異なる魔法を使うのだ。
炎の刃と氷の刃。二つ重なった切れ味は凄まじかった。
「氷炎の舞!」
格好つけて叫びながら、まさに舞うようにして、無数の斬撃を浴びせかける。
硬さを誇るさしもの岩石魔人も、これにはひとたまりもなかった。
「まさか、この俺が……」
あんぐりと口を開いたまま、体中から血を吹き出して、その場に崩れ落ち……。
口数の多かった岩石魔人は、呆気なく絶命するのだった。
もう一匹の岩石魔人には、オレンジ髪のリリアンとピンク髪のドロシーが、コンビで立ち向かっていた。
まずはリリアンだ。
「カトリーンさんにも言われたからね。出し惜しみはしないわ!」
己の肉体を鍛えて、徒手空拳で戦うのが武闘家の基本スタイルだろう。しかし武闘家とて、時と場合によっては武器を使うこともある。
この時のリリアンもそうだった。右の拳に、真っ赤な鉤爪を装着している。
それは文字通り赤く燃えていた。魔力を――この世界の人間ならば誰でも潜在的に持っている力を――流し込むことで、炎を発することが出来る武器。魔法道具の一種だ。
「えいっ!」
モンスターの懐に飛び込んだリリアンは、相手の胸に、炎の正拳突きを食らわせるが……。
体表面がわずかに焦げた程度だ。あまりダメージは与えられなかった。
「ちっ、駄目か……」
小さく呟きながら、リリアンは大きく後ろに翔ぶ。ブンと腕を振って岩石魔人が反撃してきたのを、慌てて避ける形だった。
「リリアン! 必殺技の時は、ちゃんと叫ばなきゃ意味ないよ! 気合が入らないから、効かなかったんだよ!」
「根性論みたいなの、好きじゃないんだけど……。それにあたし、そういうの恥ずかしいし……」
苦笑しながらも、ドロシーのアドバイスに従って、再びモンスターへと走り出す。
「ファイヤー・ナックル!」
リリアン本人は恥ずかしがっていたけれど、ドロシーに言われた通り、精神力がアップしたのも事実なのだろう。
結果として、武器に注がれる魔力も増大。先ほどよりも大きな炎に包まれた灼熱の拳を、岩石魔人にお見舞いする!
モンスターの方でも、黙って攻撃されるだけではなかった。二度目だから対応も出来ており、ドロシーのパンチに合わせるようにして、カウンターで殴りかかってくる。
赤い拳と岩の拳が真っ向からぶつかり……。
砕けたのは、岩の拳の方だった。
「俺の右手が……!?」
無口な岩石魔人が叫ぶくらいだ。よほどの衝撃だったのだろう。
右の肘から先がボロボロと崩れていくモンスターに対して、リリアンが追撃する。
「もう一発! ファイヤー・ナックル!」
「ぐふっ!?」
炎の正拳突きが決まり、胸にボコッと穴を穿たれた岩石魔人。
モンスターが苦痛に顔を歪めて、体をくの字に曲げている間、リリアンはその場にしゃがみ込み……。
「来な、ドロシー!」
「行くよ、リリアン!」
彼女の背中をドロシーが駆け上がり、タイミングを合わせてリリアンが立ち上がる。
その勢いも乗せて、リリアンを踏み台にしたドロシーが大きくジャンプ。
「必殺! ダブルジャンプ斬り!」
両手で逆手持ちにしたショートソードで、上から斬りつける。
狙いは岩石魔人の口だった。
いくら外側の皮膚が硬い岩石魔神といえども、口の中は柔らかい。喉の奥まで貫かれれば、大きなダメージを受けることになる。
「ぐはっ!?」
苦悶の叫びを上げたところに、さらにリリアンから、
「最後にもう一発あげるわ! ファイヤー・ナックル!」
止めの正拳突きを食らって、二匹目の岩石魔人も倒れるのだった。
仲間たちが二匹のモンスターを屠る間。
単眼巨人と相対していた、緑髪のクラリスは……。
「アルデント・イーニェ・フォルティシマム!」
超炎魔法カリディガでモンスターを攻撃。
クラリス自身が炎系統を得意とするのもあって、かなり巨大な火球が単眼巨人に襲いかかるが……。
「フン、この程度か。しょせん人間の小娘だな」
モンスターは鼻で笑いながら、軽く片手で弾き飛ばす。
「あら! イアチェラン・グラーチェス!」
慌てて弱氷魔法フリグラを唱えるクラリス。
単眼巨人により明後日の方向へ飛ばされた炎が周囲の木々に燃え移れば、森林火災を引き起こす可能性もある。だから氷をぶつけて、消火を試みるのだった。
「おいおい、そんな暇あるのか? お前の相手は、この俺だぞ!」
嘲りと共に、単眼巨人が殴りかかってくる。
ポンと軽く後ろへ飛んで避けたクラリスは、再び呪文を詠唱。
「アルデント・イーニェ・フォルティシマム!」
「芸がないぜ! さっき効かなかった魔法だ、今度も効くわけないだろ!」
余裕のセリフを吐く単眼巨人の前で、巨大な火球はサイズを縮めていき……。
「おいおい、もうパワーダウンかよ……。何っ!?」
その軌道を変えることで、払い除けようとしたモンスターの手を掻い潜る!
「あら、あなたこそ。魔法をコントロールできる相手は初めて? 一流の魔法士と戦ったことないのかしら?」
「ぐわあっ!」
威力はそのままで、小さく凝集された火球が、単眼巨人の目玉に直撃。あまりの苦しみでモンスターは倒れ込み、その場でのたうち回った。
「眼球が焼かれて、その水分が一瞬にして蒸発する痛み……。これも初めての経験かしら?」
穏やかな笑みを浮かべたまま、クラリスが冷たく言い切った時、
「良いものを見せてもらった。貴公らの加勢、感謝する。しかし……」
グリフベックが戦いに割って入る。
「……最後は私に任せてもらおう。これは私の問題だ、自分のケリは自分でつける!」
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