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そして、その指がさす先には奴の姿があった。治安局の連中とその傍らに横たわらせた奴の姿が。エレクは彼らに応急処置を成されてはいたが、ぐったりとした様子で身動き一つ取らない。
その様子にジークは
「死んではいないよな?」と問いかけた。
「ええ、一命は取り留めたみたい。あんたが、瓦礫を一身に受けたお陰で」
それにジークは安堵する。
「そうか。奴を捕らえる事ができたのか……」と。
するとその時、突然後方から声を掛けられた。
「うむ、お前さんのお陰様でな。ここは、こんな有様だが、この屋敷全体の崩壊も何とか間逃れた。それに、取引の記録とやらと、魔獣の証拠も無事確保できたぞ」
そう告げてくるのは、治安局の者。初老の男であった。また、どうやら彼は一部始終を聞いていたらしい。
それに対し、ジークは彼へと振り向き
「そうか。それは、よかった」と答える。
ただ、ジークはそう答えつつも、続けて彼を睨みつけた。
「だが、俺達の処遇はどうなる?」と問い詰めながら。
すると彼は、少し顔を曇らせる。
「うむ。ミーシャさん誘拐の容疑と魔獣所持の容疑は晴れたが……。脱獄とそれを幇助した件は処罰の対象になるかもしれん」
そこでジークは、自身の事よりも彼女達の無実を訴えかけた。
「アリシアとアイシャは俺の巻き添えを食っただけだ。彼女達は関係ない」
だがそれには、ジークに言い聞かせるよう告げてくる。
「まぁ、案ずるな。出来るだけ、何とかなるよう上に掛け合ってみるつもりだ」
ジークはそれを聞き、一応の納得を示す。
「……そうか。頼んだぞ」と。
ただ、彼が信用に足るかどうかは、まだ判断しかねる。それでも、今は彼を信じるしかなかった。
そして、そんなジークの疑念を知ってか知らずか、初老の男は労いの言葉を投げ掛けてくる。
「うむ。大船に乗ったつもりでいてくれて構わん。それと、本当にご苦労であったな。お前さんには、改めて礼を言わせてもらう」
しかしそこで、ジークは首を横に振った。
「俺だけでは、奴にこの手が届く事もなかっただろう。彼女達、それぞれの頑張りがあったからこそ、無事に解決できた。礼を告げるべきは彼女達の方だ」
そう告げると同時に、ジークは改めて4人を見渡す。
すると、アイシャは照れて顔を伏せ、ミーシャもどこか気まずそうに顔を伏せてしまう。
また、ミレイは姿勢を正し、ジークの言葉に答えてきた。
「最後は、全くお役に立てませんでしたけど……。ジーク様がそう仰るのでしたら、そのお言葉を有難く頂戴します」と。
そして、なぜかアリシアだけは、得意気な口調で答えてくる。
「ふふん。やっと私の有難みを実感できた様で何よりだわ」と。
そんな三者三様の反応に、ジークは(相変わらずだな)と思い、乾いた笑いを漏らす。
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