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しかしその時、アイシャとミーシャはそろって頭を下げてきた。
「いいえ、礼を言うのはうちらの方です。皆さんには、多大なご迷惑をおかけしました。この御恩は、何らかの形で必ずお返しします」
ただそれには、アリシアが首を横に振る。
「全く、水臭いわね。私達は当然の事をしたまでよ。私達は、もう仲間なんだから」
彼女はそう告げると、ジークに同意を求める様に
「ね?」と目配せしてきた。
そこでジークは頷きつつも、その言葉にどこか懐かしさを覚えさせられる。久しく、聞かなかったその言葉。
まさか、この地で再び聞くとは思わなかった言葉にジークは
「仲間か」と噛みしめる様に呟く。
そして、ジークは彼女達に応えるように頷いた。
「ああ、そうだな。仲間を助けるのは当然の事だ」と。
すると、アイシャとミーシャは呆気に取られた表情を一瞬見せるも、すぐさま笑みを浮かべ出した。
「ほんと、何から何までありがとう」
「ありがとうございます」
そんな彼女達の言葉に、ジークとアリシアはただ黙って頷いた。
それと同時に、ジークは思う。
――俺達がここにいるのは、成り行きであった。俺は彼女を、シャーリーを救い出す事しか考えていなかった。
けれど、今は違う。エレクとの騒動を越えて、俺達は友となり、仲間となったのだ。あの時、全てを失った時には、再び得られるとは思わなかった存在。俺は、今回の騒動を通して確かに得られたのだ。
ただ、同時に怖くもあった。俺の前から、また全てが失われそうで――
しかし、そんな事を考えていると、不意に初老の男が横やりを挟んできた。
「若いってのは、いいのう」としみじみとした様子で。
すると、アリシアが彼に対し、不満を漏らした。
「ちょっと、水を差さないでくれます?」
それに初老の男は、不貞腐れた様に答える。
「よいではないか。俺も輪に混ぜてくれても」
「よくないわ。あなたは、いい年なんだから! おじいさん連中と話していて下さい」
「全く、酷い言い方だな。それに、俺はまだ55歳で十分若い方なんだぞ」
「それは、署内での話でしょ?」
彼女らのやり取りは、情緒もへったくれもない。
ただ、そんなやり取りを前に彼女達は緊張の糸が切れたのか、一斉に笑い出していた。
そして、ジークもこの光景を前に、やっと実感が沸いてきた。
彼女達を守る事が出来たんだと。まだ、脅威は存在している。それでも、一先ずは脅威と呼べる存在を振り払うことが出来た。それに、ジークは心の底から安堵を漏らすのであった。
そして、ジークは心の中で誓いを立てる。
――もう二度と失わせはしない。相手が何であれ、あの時守れなかった物を俺は守り抜く。そして、進む先に何が待ち受けていようとも、必ずやシャーリーを父の手から救い出して見せる。
今は絶望を抱くのではなく、そこから転じた希望を噛みしめる様に。
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