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「専務がお帰りになられたことを報告して、休憩に入ります」
「はい……」
「十三時三十分からの開発会議資料はこちらです」
「アリガトウゴザイマス」
「ではっ!」
自慢の黒髪を揺らし、モデル時代に培った品のあるウォーキングで部屋を出て行く黎琳。
残された専務殿の八つ当たりの照準が俺に向くのが、長年の経験と空気で分かった。
「な――っんだよ、あれ! 生理か! 二日目か! 更年期か!!」
件のハルカちゃんにはこんな怒り狂った姿を見せたことはないだろう。
見せたら最後、どんなに見た目と肩書が魅力的でも、ドン引きだ。
お互いの本性を知っても一緒にいられるなんて、お互いだけだと早く認めたらいいのに……。
この二人はこの二人で長年の相棒で、黎琳の言葉を借りると、誉の下の棒で繋がった間柄。
誉ジュニアがお口に合った、だったか?
とにかく、十年くらい前までの十年間くらい、二人は恋人だった。
今と調子は変わらなかったが、それでも確かに愛し合っていて、それを隠しもしなかった。
それが、なぜか突然別れ、同時に、営業部にいた誉は経営戦略部に異動し、黎琳はモデルを辞めて奥山商事の秘書課に入社した。
あの時は、親族一同で本当に驚いた。
結局、事の真相はわからないまま、今に至る。
関係性の名称は変わっても、誉と黎琳は『相棒』でい続けている。
俺と乾さんは……?
仕事上の相棒としてもまだまだぎこちないのに、俺は彼女に異性としての好意まで持ち始めている。
相棒とは……?
俺は、黎琳への苛立ちを繰り返す誉に、彼を待っていた理由を述べた。
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