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1.
頭上には、満天の星空。
二人並んで車のボンネットに寄りかかり、高原特有の草の匂いを胸いっぱいに吸い込む。五月の夜の空気は、まだ少しだけ肌寒い。
「せんぱあい……」
尾形が一度肩をぶるっと震わせてから、情けない声で俺を呼んだ。
「なんだよ」
「オレ、やっぱ行かなきゃダメですか?」
「当たり前だろ」
「先輩は平気なんですか? オレと離れても」
「離れるったって、たかが三ヶ月だし。夜にはうちに戻って来るだろうが」
「それでもですよっ。今より通勤時間かかるし。先輩の顔見られる時間が減っちゃうし」
「あーもーうっせえ! せっかくこんないい景色のとこ来てんだから、星を見ろ星をっ!」
ぐいっと乱暴に頬に手をあて上を向かせる。春の大三角形が綺麗に見える。晴れてよかった。
啓太くんがお父さんとよく来ていたというこの高原に一緒に行こうという話が持ち上がったのは、彼が三年生に進級して間もない頃だった。
初めて会ったとき悩みに悩んでいた悠馬くんとの仲も上手くいってるようで、最近は相談の内容がより具体的になってきて……正直、返答に困る。
悠馬くんとは最近顔を合わせたばっかりだけど、啓太くんからいろいろ聞いた後だったので先入観ありまくりで……礼儀正しいし、好青年ってカンジなのに。啓太くんにはあれやこれやしちゃうんだ、って初対面でつい笑い出しそうになって。尾形の背中をパンチして何とか抑え込んだ。
啓太くんと悠馬くんは望遠鏡を手に、あっちの方行ってみます、と連れ立って行った。
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