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お互い余分に話さなくても相手が何を考えてるか伝わってる雰囲気があって、羨ましいくらいだ。さすが幼馴染み。
俺がぐいぐい押してたもんで、「首が痛いです」と半泣き状態で訴えている尾形を見上げる。
……なんでこんなヤツ好きになったのかな。
粗野で、単細胞で。ひとの気持ちを汲み取るってことが全然できなくて。
……真っ直ぐで、一途で。周りのことなんか気にせず、ただずっと俺のことを「好き」って言い続けてきて……。
「先輩?」
恥ずかしくなってきて急に手を引っ込めたので、不思議に思ったようだ。尾形が目を丸くして俺の顔を覗き込んでくる。
「……別に。何でもない」
ふいっと顔をそらすと、何故かへへ、と尾形が笑った。
「……先輩」
真面目な口調になったので怪しいと感じて車から離れようと思ったのだが、間に合わなかった。
「尾形……んっ」
長い両腕に阻まれてボンネットから動けなくなり、そのまま唇を塞がれた。
外でこんなことするなって何度言ったら分かるんだこのバカ犬! しかも二人で来てるんじゃないっつーの!
厚い胸板を拳で叩いてみるが、いっこうに離れる気配がない。
「ん、尾形……、やめ……」
心では懸命に抵抗しているのに、身体がそれを裏切っていく。もうすっかり覚えてしまった舌の動きや、背中に回った手のひらの熱さ。流されそうになる自分の身体になけなしの理性で戦いを試みる。
「ふ……」
もう擦り切れそうだった理性を取り戻させてくれたのは、草むらから聞こえてきた足音だった。
はっとして突き飛ばすように腕を伸ばして尾形から離れる。啓太くんと悠馬くんが所在なさげに立ちすくんでいた。
「あー、ええと。そろそろホテル戻ったほうがいいかなあと思って……」
悠馬くんが普段通りに快活な声で話しかけてくれたが、啓太くんは顔を赤くして目を泳がせている。見られたのは十中八九間違いない。
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