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「そうだな。ちょっと冷えてきたし、戻ろうか」
口角をなるべく高く上げて二人に笑いかけた。尾形は後でぶん殴る。
ホテルでそれぞれの部屋に戻り、ため息をついてから隣でニコニコしている尾形を睨みつける。
「先輩?」
「……俺がなんで怒ってるか分かってねえみたいだな」
しばらく思案するように首を傾げていたが、ああ、と手をぽんと叩いた。
「オレが星をちゃんと見てなかったから?」
「ちげーよ! お前があんなとこでっ、……キス、なんかするから……」
尾形の口元を見られず、俯いてしまう。
「……じゃあ、今ならいい?」
「え」
「先輩……今なら、キスしていい?」
俺の返事を待たずに唇が降りてくる。
壁に貼り付けにされたまま、貪るように口腔を侵された。
もう何度も繰り返された行為。それこそ飽きるほど。――なのに、何故だろう。
「ん……んっ」
どうしていつも、こんなに身体が熱くなってしまうんだろう。
もう外じゃない。ホテルの部屋で二人きり。抗う理由もなくなってしまった。
「まだ、風呂入ってない……っ」
掠れた声で小さく言うと、尾形はくすりと微笑んだ。
「どうせあとから入りますって」
そして俺の身体はベッドへと運ばれてしまった。
浴室で二回目の行為を終えたあと(嫌だって言ったのに)、すっきりした顔をしてすやすや眠る尾形を眺める。
やや暗くしたベッドサイドのランプに照らされて、頬に睫毛の影が落ちている。
尾形に抱かれることは正直、嫌じゃない。ただ恥ずかしさがいつまでも抜けない。捻くれた性格のせいで、いつも素直に言えない。それなのに、こいつはひたすら真っ直ぐに「好きだ」と言ってくれる。その言葉に安心する。依存してしまう。
壁の向こうから、かすかにひとの声が聞こえてくる。それが見知った相手の喘ぐ声だと気付いてかあっと顔が熱くなった。
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