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ホテルのガラス扉を抜けてきた複数の人影に、俺はため息をついた。
「先輩? 大丈夫ですか?」
スーツ姿の尾形があまりの深いため息に狼狽する。
「うん……まあ……俺は慣れてるからいいけど。お前は覚悟しとけ」
「はいっ」
ぜってえ分かってないなコイツ。まあ来てしまったものはもう避けようがない。
「やっほー久しぶり」
一番目の姉、栞が手を振ってくる。サラサラの長い髪を肩から払い、尾形を見上げてにっこりした。尾形もつられて微笑んで会釈する。
「はじめまして~久坂三姉妹です」
ショートヘアにごっついピアスを揺らしながら、妹の雅が少し戯けて挨拶した。
「……なんでこいつらも連れてきてんだよ」
横で腰に手を当てて尾形を凝視している碧を睨みつける。
「だってえ。将来家族になるかもしれないんでしょ。あたし一人じゃ手に余るわよ」
ゆるくウェーブのかかった横髪を指でくるくる弄りながら、ねーっと姉と妹に笑いかけると、皆で同じように小首をかしげる。小悪魔も三人揃うと大悪魔に変身だ。
はああ、と大きくため息をついてから尾形を手のひらで指し示す。
「……こいつが、俺の……」
「初めましてっ。尾形恭平といいます。今日はお時間いただけて恐縮ですっ」
ペコリと尾形が頭を下げる。
とにかく座って話そうということになり、ホテルのラウンジへと移動した。ゆったりとしたソファの感触にいくぶん気持ちが落ち着く。大きな窓からは人口の滝が見えて、水の流れるさまに涼しさを覚えた。
尾形との出会いから馴れ初めから散々質問されて、疲弊しまくったところに碧がコーヒーカップを持ち上げながら言った。
「でもよかった。どんな女連れてきても、あたしら納得できないって思ってたから。そうきたか! ってちょっと予想外だったけど」
「え、よかった……のか?」
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