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ロビーで姉たちを見送って、やれやれ、と首を回した。とにかくパワーを持っていかれる。実家で集合することを考えると今からゾッとするくらいだ。
「今日はありがとな。お前も疲れただろ」
「いえっ、俺は全然。お姉さん達にお会いできて嬉しかったです」
すでに陽は西へと傾きかけ、ロビーには夕陽が差し込んでいる。その光が窓を背に立つ尾形の輪郭を柔らかくオレンジ色に染めた。
神々しいものを見る面持ちでじっと見上げていると、尾形が俺を見て微笑んだ。先輩、とゆっくりと口を開く。
「先輩は、今幸せですか?」
「え……」
「俺と一緒にいて、幸せ?」
こくりと頷くとほっとしたように破顔した。
「よかった。オレもです」
晴れやかな笑顔に釘付けになる。
「オレは、今が幸せならそれでいいんじゃないかなって……ほら、幸せな気持ちがずっと続くなら、未来も幸せのはずじゃないですか」
「尾形……」
「幸せって見えないから難しいけど。今、先輩が幸せって言ってくれたんで、オレも幸せです」
年下で、社会人としてもまだペーペーの癖に。
あーもーベタ惚れだよ畜生!
ぎゅっとそのガッチリした腕に絡みつく。
「せ、先輩!?」
いつも外だからひっつくなとかうるさく言うのは俺の方なのに。尾形は戸惑いながらも俺を振り払うことはせず、ただ柱の影へと移動した。
「幸せのかたちって……人それぞれでいいんだな」
尾形の胸元で独り言のように呟くと、
「そうですよ! オレたちは、オレたちのかたちでいいんです」
尾形の手のひらが俺の髪を撫でた。
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