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「ねえ訊くけど、」
「はい、何でしょう?」
「今まで何人と付き合ったの?」
「いっきなりですねえ。」
おどけられた。ああしまった、訊くんじゃなかった。相手が誰だか忘れてた。頭がまだ正常に機能していないみたいだ。
「いつから入れましょうか?」
ああこの面白そうな顔。飛んで火にいる、あるいはネギカモか。
「ええと、」
「小六からとすると、」
「えっ、なに小六からもう付き合ってたの?」
「はい。え、絵梨花さんは違いますか?」
二回目に名前を呼ばれたというのに、何だこの文脈は。
「…高二。」
あっははそりゃあ、とか笑われている。見事にバカにされている。指を折り始めた。じっと見ていて15人を過ぎたところで、
「もういい、わかったから。」
ドクターストップならぬ、ナースストップをかけた。やっぱりロクでもない。慣れてるはずだ、何もかも。
「絵梨花さんは?」
「勝負にならないから。」
「勝負なんですか、これ。」
チキチョー、なんだその嬉しそうな顔は。
「なら概算で何人ですか。」
「概算って。」
ブウたれながら渋々告げた。
「二けたいかない。―長いの、私付き合うと。」
悔しくてつい口が滑った。途端に沈黙が落ちる。ああしまった、最悪のこと言っちゃった。何で今言うかな。これじゃまるでプレッシャーかけたようなもんじゃない。
「いや、ちが、そうじゃなくて、」
慌てて取り繕いにもならないことを口走る。
「…ですよね、七年でしたっけ。」
「へ?」
ええと、そっち?ああそっちなんですね。ひとまず胸を撫でおろした。
「なにホッとしてるんですか。」
「いや、それなら良いのよ。」
「絵梨花さん、」
低い声になっていてびっくりした。
「え?あ、はい。」
「今日、俺の誕生日ですよね。」
「うん。」
「何でそれなのに、絵梨花さんの過去の男たちのこと聞かされたり、挙句来年はいないとか脅されたりしてるんです?」
あまりに意外なことで思わずまじまじと顔を見てしまった。
「ちょっと、」
「…」
目の前で手が振られた。
「聞いてます?」
「え、ああ、うん、聞いてる、聞いてる。」
「おざなりか。」
何なんだろうなあ、この人は。首筋とかじゃ全然足りないよな。不穏な言葉が聞こえて来てギョッとした。
「いや、もう十分、お腹いっぱいです。」
「いや、まだだな。」
「ちょっと、ちゃんと聞きなよ。」
鼻で笑われて急に頭が抱き寄せられた。
「ちょっ。」
「キスしましょう、やっぱり。」
「やっぱりって何、やっぱりって。」
あははと至近距離で笑うから、息がくすぐったい。
「バースデーキス。」
「少しは照れて。恥ずかしすぎるでしょ、その言葉。」
「別に照れませんけど?嫌なんですか、絵梨花さん。」
「…嫌ってわけじゃないけど。」
「ですよね、なんだかんだでイブ以来ですもん。」
「なんだかんだって何?」
「いちいち。」
笑いながら唇が押し当てられた。くすぐったくて私も笑ってしまった。唇が離れてじっと目を見つめられる。
「最高の誕生日ですよ。」
「それ、25回くらい言ってそう。」
「計算早いですね。」
「公文やってたからね。」
「俺もですよ。」
「どこまでやった?っていうか、算数?」
「はい、算数です。俺はLまでかな。」
「げ、負けた。」
「どこまでです?」
「悔しいから言いたくない。」
「ほんと、どこまで負けず嫌いなんだか。」
「君に言われたくないわ。」
はは、と明るく笑われた。
あれ?
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