1.1月25日、由良希彦37歳

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「ねえ訊くけど、」 「はい、何でしょう?」 「今まで何人と付き合ったの?」 「いっきなりですねえ。」 おどけられた。ああしまった、訊くんじゃなかった。相手が誰だか忘れてた。頭がまだ正常に機能していないみたいだ。 「いつから入れましょうか?」 ああこの面白そうな顔。飛んで火にいる、あるいはネギカモか。 「ええと、」 「小六からとすると、」 「えっ、なに小六からもう付き合ってたの?」 「はい。え、絵梨花さんは違いますか?」 二回目に名前を呼ばれたというのに、何だこの文脈は。 「…高二。」 あっははそりゃあ、とか笑われている。見事にバカにされている。指を折り始めた。じっと見ていて15人を過ぎたところで、 「もういい、わかったから。」 ドクターストップならぬ、ナースストップをかけた。やっぱりロクでもない。慣れてるはずだ、何もかも。 「絵梨花さんは?」 「勝負にならないから。」 「勝負なんですか、これ。」 チキチョー、なんだその嬉しそうな顔は。 「なら概算で何人ですか。」 「概算って。」 ブウたれながら渋々告げた。 「二けたいかない。―長いの、私付き合うと。」 悔しくてつい口が滑った。途端に沈黙が落ちる。ああしまった、最悪のこと言っちゃった。何で今言うかな。これじゃまるでプレッシャーかけたようなもんじゃない。 「いや、ちが、そうじゃなくて、」 慌てて取り繕いにもならないことを口走る。 「…ですよね、七年でしたっけ。」 「へ?」 ええと、そっち?ああそっちなんですね。ひとまず胸を撫でおろした。 「なにホッとしてるんですか。」 「いや、それなら良いのよ。」 「絵梨花さん、」 低い声になっていてびっくりした。 「え?あ、はい。」 「今日、俺の誕生日ですよね。」 「うん。」 「何でそれなのに、絵梨花さんの過去の男たちのこと聞かされたり、挙句来年はいないとか脅されたりしてるんです?」 あまりに意外なことで思わずまじまじと顔を見てしまった。 「ちょっと、」 「…」 目の前で手が振られた。 「聞いてます?」 「え、ああ、うん、聞いてる、聞いてる。」 「おざなりか。」 何なんだろうなあ、この人は。首筋とかじゃ全然足りないよな。不穏な言葉が聞こえて来てギョッとした。 「いや、もう十分、お腹いっぱいです。」 「いや、まだだな。」 「ちょっと、ちゃんと聞きなよ。」 鼻で笑われて急に頭が抱き寄せられた。 「ちょっ。」 「キスしましょう、やっぱり。」 「やっぱりって何、やっぱりって。」 あははと至近距離で笑うから、息がくすぐったい。 「バースデーキス。」 「少しは照れて。恥ずかしすぎるでしょ、その言葉。」 「別に照れませんけど?嫌なんですか、絵梨花さん。」 「…嫌ってわけじゃないけど。」 「ですよね、なんだかんだでイブ以来ですもん。」 「なんだかんだって何?」 「いちいち。」 笑いながら唇が押し当てられた。くすぐったくて私も笑ってしまった。唇が離れてじっと目を見つめられる。 「最高の誕生日ですよ。」 「それ、25回くらい言ってそう。」 「計算早いですね。」 「公文やってたからね。」 「俺もですよ。」 「どこまでやった?っていうか、算数?」 「はい、算数です。俺はLまでかな。」 「げ、負けた。」 「どこまでです?」 「悔しいから言いたくない。」 「ほんと、どこまで負けず嫌いなんだか。」 「君に言われたくないわ。」 はは、と明るく笑われた。 あれ?
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