怪異専門お悩み相談係

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怪異専門お悩み相談係

「……は? 今なんて?」 「何度も言わせないでくれたまえ! 口裂け女だよ、口裂け女!!」 睡魔と戦っている俺にはついていけないテンションで、そう捲し立てているのは友人の蓬莱(ほうらい)(かおる)。眠気覚ましの為に注文したアイスコーヒーを飲みながら、取り合えず続きを促す。 「この大学の近くで、口裂け女の目撃情報が一か月で七件も上がっているのさ! 何人かに話は聞いたが、本物かもしれない!」 「……へぇ」 「何だそのつまらない反応は! もっと驚いてくれたまえよ!」 力説する薫には悪いが、俺は今、猛烈に眠い。少しでも気を抜こうものなら、そのまま夢の世界に旅立てるレベルに眠い。 ひっきりなしに出てくる欠伸を嚙み殺して、目薬をさす。眠気覚まし用に買ったメントール入りのものですら、この強烈な睡魔には敵わないらしい。 段々と睡眠する方へ傾いていく脳に必死に抗いながら、口を開く。 「……で、その口裂け女をどうしたいって」 この破天荒で好奇心の赴くまま、とんでもない行動力を発揮してくる友人がどう返してくるか。そんなものは考えなくたって分かる。 怪異専門のお悩み相談係、何て自らを称して依頼があれば何処へでも飛んでいき、それに当然の如く俺を巻き込んでくる男だ。 今の所デマや勘違い、大した事の無い怪異にしか遭遇していない。 だからと言ってこれからも安全か、と言われると首を傾げざるを得なかった。怪異なんてものは人間の常識で測れるものではないのだ。予期せぬ所で危険な目に合う事だってある。 平和に、平穏に。何事もなく大学生活を送りたい俺には、本当に心の底から勘弁してほしい話だが、放っておく事も出来やしない。自分の性質を恨みながら、氷でだいぶ薄まってしまったアイスコーヒーと共にため息を飲み込む。 「実はね、僕達にオカルト研究部から依頼が来ているんだよっ! その口裂け女を見つけて欲しいってね!」 薫は新しい玩具を手に入れた幼児の様に目を輝かせ、喜びと好奇心を身体中から溢れさせている。この状態の薫を止めようとした所で、時間の無駄だ。そもそも俺には最初から、拒否権なんて存在しない。 だけど、これだけは言わせて欲しいと口を開く。 「……分かった。そうなるのは知ってたから良いとして、一つだけ言わせてくれ」 「何だい?」 「……俺をお悩み相談係に数えるのはやめてくれ。もしくは常勤じゃなくて非常勤を希望する」 俺は極々普通の大学生活を送れればそれだけで満足する、何処にでもいる平凡な男でいたいのだ。スリルなんてジェットコースターくらいでしか味わいたくない。 きょとんと、それこそ子供みたいな顔をした薫が、俺の心情などお構い無しに破顔する。 「それは無理だ! 何せ君は僕の親友なのだから!」 予想通りの回答に。「あぁ、うん。そうだろうな」と肩を落とすしかない。途端に重くのしかかる睡魔に抗いきれずに、視界が狭まる。 耳元でからりと虚しく響いた氷の音が、まるで今の俺の様だと。遠のいていく意識の中で、そんな馬鹿げた事を考えた。
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