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「あの、大丈夫ですか??」
後輩だろうか、男の子が豚のマスクを拾って心配そうに私の顔を覗き込む。何か暗い未来を見た気がする。
(さあ、いこうか!)
私の中の愛花が叫いだ。高校生の私。嫌なことを超人的な嗅覚で回避することができる能力をもつ私。この能力を私は人生イージーモードのはず・・・。
行くもんかっ、心の叫びとは逆に私はその男の子から豚のヘルメットマスクと着ぐるみをひったくって女子トイレに駆け込んだ。無我夢中だった。
(着替えたわね。あなたはもう清水涼香ではないわ)
(・・・・・・くくっ)
私の中の愛花が笑いを堪えている。そりゃ豚のマスクに着ぐるみ、おかしいだろうよ。ポケットに手を突っ込むと魔法少女のキャラクターキャンディ。それを口に放り込み、力強くかみ砕いた。味はいちご。私はトイレを出て駆けだした。
(あなたは正義のヒロイン、魔法少女インキャンディーよ!)
教室に入ると何も言わずに三上さんとギャル3人組の前に進み出た。何も言わず、というより心の中では「やめろ!」と言っていたのだが現実には何も言えなかった。教室は豚の着ぐるみの登場に静まり返った。呆然とした表情の4人。かろうじてギャルリーダーが、
「え?何?誰?」
と言ってからしばらくして周りが笑い始めた。豚のヘルメット、豚の着ぐるみが無言で入ってきたこの異様な光景にやっと慣れてきたようだ。私は恐怖と緊張で声が出ない代わりに、震える全身に力を入れて三上さんに指をさした。
「え?」
戸惑う三上さん。ギャルの一人が、
「え?もしかして助けに来ましたって?」
そういってリーダー格のギャルに目を向ける。それに不快感を示したギャルリーダー。
「は?そういうこと?正義のヒーローか。なめてんの?」
つかつかと近づく。
「誰だよ、てめぇ。ぴえんさせてやるからよ」
そういって、ヘルメットをつかむ。
(しまった・・・)
そう思ったとき、緊張と興奮で全身に力が入っていたのだが、その力が右拳一点に集中された。私は何も言わず力いっぱいその拳を前に突き出していた。
「ぐえっ!?」
ギャルリーダーが殴られた顔を手で押さえてうめき声をあげている。
(やってしまった)
そう思う私だが、腹が立っていたのだろう、興奮もしていたからか、うずくまるギャルリーダーを蹴飛ばしてその場から逃げ出した。
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