島の息吹、空の囁き

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●第3話 その光景はまるで島の周りを巡っているかのように見えた。 しかし、ヘリコプターが再び動き出して上昇し始め、山の向こうに消え去った時は安堵の念が大尉を包んだ。 この時に初めて、ヘリコプターの正体が明らかになった。 しかし、ヘリコプターの存在を信じる人々と疑う人々に分かれることになった。 島の人々は一斉に「ヘリコプター、いわゆるヘリコは実在した」と口々に言い始めた。 それまで信じていなかったとしても、彼は島にとって大きな希望を感じた。 「これで島の人々に笑顔が戻るだろう」と多くの人々は考えたに違いない。 しかし、一方でヘリコプターを恐れる人々もいた。 「これが本当の現実なのか?」と疑いの念を抱いている人々もいた。 しかし、信じるも信じないも関係ない。現にヘリコプターはそこにあり、舞礼堂という人間もここに生きている。 「私は危害を加えに来たのではない」 ヘリコプターは人々に語り掛けた。 「この男でございます。こやつは仲間を率いて戦いを挑みました」 「浜さん、なんてことを言い出すんだ」 長老があわてて諫めた。それでもひるまず「いいえ。大尉は神にあらがった」 「あんた!」 大尉は声を荒げた。すると青白い光線が降り注いで浜さんに巻き付いた。 「うわああ」 彼はみるみるうちに輝く繭に包まれた。 「まだわからないのですか。私は裁きにきたのでもありません。人間の心に渦巻く迷いや恐れを解きほぐしにきたのです」 ストンと浜さんが解放された。そして、彼は頭上の神にひれ伏した。 ●島の未来を決める『決断会議』 ヘリコプターが現れてから数日が経ったある夜、長老の一人が会議室で一同に向かって話し始めた。 「『ヘリコプター』というものが本当に実在するのだな」という声が多く聞かれるようになったある日、長老は話を切り出した。 「『本物のヘリコプター』かどうかは分からない。 だが、それが『政府のヘリコプター』であることは間違いないだろう」と言った。 そして、「ヘリコプターがこの島に来た目的は『島の視察』ではないだろうか?」と提案した。 人々が疑問そうな目で見つめると、長老は言った。 「実際、ヘリコプターが来たときに、窓から『あの会社の社長』らしき人物が乗っているのを見たのだ」と。 つまり、その男はヘリコプター会社の重役だったのである。 しかし、「島の人々を欺くためにそんなことをしていたのか?」という声もあった。 「確かにあの男の顔は、『あのヘリコプターに乗ってきた舞礼堂大尉』と似ている気がするが……」 「いや、そうではない」とその人は言った。 実際、島に来た直後、気の弱そうな中年女性を捕まえ、あのヘリコプターの目的を聞いたことがあったのだ。 その女性は、自分が働いていた会社が倒産してしまったことを話し、「どうして倒産したのか」と言ったら、相手はその女性が勤めていた会社の名前を聞いて驚いた。 なんと、その会社のヘリコプターであることが確かだったのだ。 しかし、その後会社は破産宣告を受け、従業員たちは解雇された……。 この女性は、自分が働いている会社のことは何も知らなかったので驚いたと言う。 「あなたたちは一体何をしたいのか」と思ってしまったのだという。 他の会社の社員が名乗り出ることを待っていたが、誰も名乗り出なかった。そして、ヘリコプターは去って行き、男はヘリコプターから降り、島にやって来たのだという。 だから、男が乗っていたのも本当だと彼女は言った。 そして、男は自分が働いている会社について何か言っていたとも話した。 「『ヘリコプターを造っている会社である』と言っていた。 それで思い出したのが『ヘリコプター』という言葉でね……。 今度島にやってきた時にそのことを聞くつもりだよ」 ヘリコプターが再び島に現れた日の夜のことだった。 人々は再び会議室に集まった。 全員が集まったわけではなかったが、多くの人々がそこに集まったということは意味があった。 「ヘリコプターを見た」と主張する人々が多かった。 しかし、「あんなものが『本物のヘリコプター』であるわけがない。 政府の陰謀だ」「政府に買収された連中の嘘だ」「あれに乗っているのは政府の連中で、この島の実際の状況を視察するために派遣されてきたのだ。 私たちを騙し、島の住民の信頼をなくさせようと企んでいるに違いない」と言う人々もいた。 しかし、ヘリコプターを恐れる人々は誰もいなかったという。 ヘリコプターの目的を尋ねると、男は「島の現状を見に来た」と答えた。 さらに、「今は無人島だが、これから少しずつ整備していく予定だ」とも付け加えた。 ●第4話 そのため、島の代表たちは熱心に懇願した。男性は島の人々に雇用を提供するため、新しい施設を建てるよう依頼した。それは島に工場を建設するというものだった。そのため、新たに「役所」と呼ばれる施設を建設することになった。男性は島の人々を安心させ、自社を紹介するために、見学ツアーを約束した。そして、ある日、ヘリコプターに乗って案内役がやってきた。それ以来、「ヘリコプターが島上空を飛んでいる」という噂が広まった。男性はヘリコプターを操り、島内を自由に移動していた。ある女性は「間違いなくヘリコプターだった」と主張した。ヘリコプターの窓は黒く塗られていたため、中が見えなかったが、操縦席にいた人物は黒髪の男性であることがわかった。多くの島民が男性の姿を目撃したが、はっきりと確認できた者は少なかった。彼らの証言によると、男性は黒い帽子をかぶっていて背の高い姿だったという。5月23日には3機のヘリコプターが飛来し、多くの人々が喜んだが、その後も次々とヘリコプターが現れた。最初は男性が島の状況を確認するために来たのだと思われたが、次第に彼が島にヘリコプターをもっと多く持ち込むよう要求していることが分かった。また、彼は島の人々の生活よりも金儲けを優先しているように見え、島の現状に不満を持っていることが発言から伺えた。ヘリコプターはしばしば島の上空で待機し、時には島民の前に現れることもあった。中には、「もし島が無人島になったら、ここに私の会社を建てて従業員を呼ぶつもりだ」と説明する人物もいた。ヘリコプターが島の近くにいるときは、わざわざ報告しに来る人さえいた。 ヘリコプターが何をしているのか、島の構造について説明しよう。島は男の会社の本社、工場地帯、発電所、港地区、住居地区の5つに分けられている。男は発電所で働いているので、彼の現場はそこだ。長老はそのことについて語る。男は島の視察だけでなく、島の人々に電気を供給するための作業も行っているという。長老によれば、男は毎日遅くまで働いているという。昼間は島の人々はほとんど何もしていないそうだ。島民の中には、「あの男は政府のヘリコプターではなく、本当にこの島の人間だ。彼は私たちを助けてくれる存在に違いない!」と言う声もある。 ●男の生活 浜はヘリコプターが来た日以来、島の人々の様子が明るくなったと長老から聞いた。しかし、浜はまだ長老の話が終わる前に、ヘリコプターの話を信じられなくなっていた。なぜなら、浜が見た男は偽物だったからだ。本物のはずがない。あの男が島の人々に嘘をついていることは明らかだった。証拠はないが、浜は確信めいたものを感じていた。しかし、あのヘリコプターに乗って島を駆け巡っているという男の話は本当なのだろうか…… ●謎のヘリコプター 長老によると、ヘリコプターは「島に電気を運ぶために」頻繁にやってくるという。男はヘリコプターに乗っていた時、島の人々に対して「これからこの島にたくさんの電気を送り届けます」と呼びかけたという。ヘリコプターならば遠くまで行けると思われるかもしれないが、実はそうではないのだ… ●真夏の大宴会 ある日、いつものように黒いヘリコプターが空を覆い尽くし、島の上空を通り過ぎていった。これは他のヘリと同じ光景だった。その夜、集会所の二階から誰かの悲鳴のような叫び声が響いた。その部屋には以前から病気がちな老人がいたが、この日は寝たきりだった。階段から足を踏み外して転落したため、大変な騒ぎになった。人々はその時の混乱を忘れないという… ●突然の悲劇と混乱の中 老人は体調が悪く、起き上がることも困難な状態でベッドに腰かけていた。それでも階段の手すりにつかまって立ち上がろうとしたが、バランスを崩して後ろに倒れてしまった。そのまま階下の床に背中から落下し、意識を失ったまま数日が経過し、医師の治療も虚しく彼は亡くなった。彼の死因はわからないことが多かったが、明らかになった事実が人々を震撼させた。天井には照明があったが、その明かりは彼の顔の真上には置かれていなかった。照明の位置が高いため、彼の頭頂部が血まみれになり出血していたのだ。また彼の服にも血が飛び散っていた。なぜこんなことが起きたのだろう。 ●第5話 「事故」と「事件」の違いは何か? 1階に下りるのが少し遅れて様子を見に行った者は、彼が亡くなっているのを見てすぐに、警察に連絡するために一階の電話に向かったという。 「警察」という言葉を聞いて人々がざわめき出した時、ある男が、「警察に話せば、あの男が島にやって来たことやこの島が無人島になる可能性があることなどを話すことになる。 そうなったら警察はますます島の現状に興味を示すに違いない」と言って男を呼び出して話を聞こうとする警官達を追い返そうとしている姿を何人かが見ているのだという。 結局、警察は「男の遺体を運び出さなくてはならない」という理由でこの家に来なかった。 男が死んでからの数日間に起こった変化について語る人々 男は死亡した翌日ぐらいまでは元気な姿を見せていたという。 しかし、それ以降はまるで生気のない状態が続いていたという。 そんな彼を見た人々の態度は変わっていった。 長老の話を聞く前から男の話を全面的に信用することは難しくなっていたのである。 葬儀の準備が始まると同時に、その家の周囲では変化が起こった…… 葬儀の予定が決められた直後、長老の家には大勢の人が詰めかけるようになっていたという。 彼らは、男の葬儀のために祭壇を作る準備をしていたらしいが、「男は生きているうちに『神として』崇められているようだ」という。 長老は、葬儀は死者のためのものではないと力説したが聞き入れてもらえなかったという。 島の人々が望んだ「本当の男の像」とは一体何なのか? 「我々はこれまであの男は『偽物だ』と信じてきた。 でも、最近になって本当にあの男は『偽物』だったかどうかわからなくなってきてしまった。 我々の心の中で、今『偽物』という認識が崩れ去ろうとしているのだ」 長老の言葉を、浜は思い出していた。 長老が見た男は「嘘」で塗り固められた偽物に過ぎなかったのだろうか? 男は本当に「神格化」された存在だったのだろうか? 1月27日の早朝、一人の女が長老の家へやってきた。 彼女もまた、あの「謎のヘリコプター」を目撃していて、その時の様子を語る。 彼女がヘリコプターを目撃したのはこれが初めてではなかった。 以前、一度ヘリコプターを目撃することがあって、「ヘリコプターに乗ってきた男は島の人々と仲良しになったらしい。 その男は今は島の人と一緒に暮らしながらヘリコプターを使って島の電気や水などを運んでくれているそうだ」ということを噂好きの女性から聞いていた。 彼女はその日、朝の散歩の途中で偶然、空を見上げるとそこに「ヘリコプターらしきもの」を目にした。 今までも時々見かけることはあったが、今回のそれはこれまでに見かけたヘリコプターとは違っていてかなり低空で島の上を飛んでいるように見えて不気味に感じたという。 それはヘリコプターのプロペラの羽音がしないだけでなく、ヘリコプター独特のエンジン音なども聞こえない不気味な姿だったという。 男の死体はどこに運ばれていったのか? 長老は「男の遺体はすでに島の人達の手によって海に流されてしまったのではないか」と考えている。 彼は葬儀を行う前日の夜の出来事を思い出していた。 夜、長老は、集会所の窓越しに見える海面を見て何か異変に気付いたという。 その時、彼は誰かが窓から顔を出してこちらに向かって手を振るのを見た。 その人物は男だった。 その時、彼の頭に浮かんだ言葉は、こうであった。 (あの男は死んだんじゃなかったのか) あの男はやはり実在したのだろうか? 男の遺体をどうするかという問題が持ち上がってきた。 それは「埋葬しよう」という意見と、「どこかに隠そう」という二つの意見に分かれた。 「埋葬して、もし見つかってしまったら、今度はどんな恐ろしいことになるかわからんぞ。 もうあそこまでしてしまったのだからこれ以上のことをするのはよした方がいい」という意見もあったという。 そしてその日の午後になって、突然、男は消え失せてしまう。 男が姿を消した後の変化は何を意味するか? 男の姿を見た人は誰もが思ったに違いないという。 あれほどにこやかな様子を見せていた彼が急に姿を消してしまったことに人々は戸惑っていたという。 その男は、まるで自分が死んで幽霊になってしまったような気分になっていると言っていたが、それも仕方がない。 「事件」は終わったのか? 1月中旬の午後のある日、ある男が長老の家にやって来て、「あの男が亡くなった」という話を聞き驚いていたのだという。 だが「なぜ、その事実を教えてくれなかったのですか」という質問に対して長老は何も答えなかったという。 そしてその男は長老と少し話した後、帰っていったのである。 その後、この家にやってきたある女性が語った内容によると、ある女性もこのところの長老の姿を見ていられない気持ちになったという。 長老が毎日のように男が死んだ場所を訪れてはそこでぼんやりとしているのを見ているという。 この家は長老一人だけが住む家なのだが、誰もいなくなった家の中は寂しく感じるのだという。 長老の姿を見ていると悲しくなってくるので、最近は長老のところに近づかないようにしているという。 長老はこの数日というもの一日たりとも男の亡くなった場所を離れることなく過ごしていたという。 そんな姿を、この島の人間はずっと見守ってきたのだ。 この家に来た男との話の内容は、長老以外の誰にも話さなかったのである。 浜はその日初めて、その家にお邪魔することになった。 長老の家はそれほど広くなく、部屋の数も少ないのだが、天井がとても高いのが印象的だった。 部屋の一つは、祭壇を作るためにすでに家具などが運び出されているらしく空っぽの状態になっていた。 2階への階段が塞がれている理由は何なのか? 男の遺体はどこへ運ばれたのか? という疑問について。 男は1月に死亡したのだが、葬儀の前に遺体は一度長老宅2階の寝室に移された。 その際は、遺体を運ぶために使われる台車が使われたという。 ●第6話 その後葬儀の準備が進み、結局男の遺体は島の人々が見守る中海に流されることになった。 その時、男の体は船に乗って運ばれることになっていた。 長老の指示によってあらかじめ手配していた業者の船が島に近づいてきて棺を船の方に運ぶ。 そして、遺体をそのまま乗せたまま、船は沖の方へ行ってしまったという。 葬儀の前々日から数日間は穏やかな波が続くという予想があったからだという。 しかし、実際の天気は全くの逆だったらしい。 激しい高波が続いたおかげで、予定よりはるかに早く出航することになってしまい、男は火葬もされずに海に流されていくことになったという。 また、長老の家は島の人々の集会所の役割も果たしていたらしく、葬儀の間も島の人々はそこに集まっていたのだという。 「あの男の葬儀をちゃんとしてやるべきだ!」と言ってきた人物がいるという噂もあるようだ。 葬儀には何人が出席したのか? 男は1月7日以来、「神になった」という認識を持った人々によって崇められ続けていたようである。 そして「葬式を出そう」ということになったらしいのだが、誰のためにするべきなのだろうか。 男は島の人間とはそれなりに親しくしていたようではあるが、島外から来た人ではなかった。 つまり「島民のための葬式ではない」ということだと思われる。 では誰が喪主になるのか。 これについてはいろいろと議論が起こったらしい。 「これはあの男の『死』に対する認識を試すための試練かもしれない」「本当にあの男はまだ死んだわけではない。 今のうちに葬儀を行ってしまうのは不遜だ」などの意見が出た。 なぜ島の人間が葬列を作って葬儀に参加することにしたか? 1月中旬に長老が亡くなって以来、「男に付きまとうように見えて実は違う何かがあるのじゃないか?」という考えが村人の間に広まっていたのだという。 長老が亡くなる直前あたりからのあの男の不可解な行動の数々や言葉、そして男の言動がもたらした「事件」の衝撃を考えれば無理もないことだっただろう。 男は確かに普通じゃない。 男の言葉を信じるのは危険ではないか、と疑う者も大勢いた。 そんな中で、男が言ったという。 「みんなに聞いてほしい」という言葉を聞いたという。 「私が死んだとしても決してそのことに疑問を持つことはない」と男は言っていたのだそうだ。 「あの男なら言いそうな言葉じゃないか」という声が聞かれた。 だが一方で「男が発したその言葉をどうとらえるかが重要な問題なんだ。 男はもう死んでしまったのだし、これ以上考える必要はないんじゃないか」という意見もあったという。 その男は葬儀の時に皆の前でこう言ったのだそうだ。 「これからは我々が信じる神のことを考えていけばいいと思うんだ」と。 それを聞いて納得する者が何人かいたのだという。 そして、長老が亡くなった今こそ「男の存在とは何かを考えるべきときなのではないか」という空気が生まれたのだという。 そこで葬儀が行われる際に葬列を組むことを発案したのがその男だったというのだ。 「だからあの男のためというよりむしろ自分たちのための儀式なのかもしれないな」という別の男の声もあった。 この意見にも一定の説得力はある。 ちなみに長老は、葬儀を行うにあたり、男との話し合いをしたいと思っていたようなのだが、結局それもかなわずじまいになってしまったらしい。 葬式に参加した人間は何人だったか? 男の遺体は最終的にどのくらいの数の棺桶の中に入れられたのか? それはよくわかっていないようだ。 というのも、死体は海に流された後どこかに流れ着くことなく沈んでいってしまい行方がわかなくなったらしい。 その数についても同様で、長老の家に残されていた記録以外には何一つ手がかりがなかったというのである。 ただ、葬式に参加していなかった人間はいても、誰も葬式そのものに参加しなかった人間はいないのではないかという噂があったという。 2月に入ってすぐに、島にある一つの墓が発見されることになる。 それは2階に新しく作られる予定の部屋の中だったようだ。 その部屋は長老夫婦の寝室になる予定だったようで、そのために必要なベッドや机なども運び込まれていたが、まだ荷物が片付いていない状態で何に使うつもりの部屋なのかはよくわからない状態だった。 だがその中になぜかある一個の箱だけが目についたのだという。 この中に一体何が入っているのかということについて長老に尋ねたものがいたのだが、彼は首を傾げていたらしい。 長老の死は病気だったのか?それとも他の原因によるものだったのか? 長老は結局死因については何も言わないまま死んでいったのだという。 「神になった男は死んだ後にまた生まれ変わる。 それまでの間この島の人々をしっかりと見守るだろう」とだけ言ってこの世を去っていったようだ。 彼の死後、男の存在はますます信じられないものになってゆくことになるのだが、それはもう少し先のお話である。 24:葬儀には島の外から誰かを呼んだか?あるいは誰を招いたか?またその人はどんな人物だったのか? 葬儀はごく小規模に行われたのだという噂があったようだ。 葬式の手順としては次のようなものがあったという。 葬式の準備をするため長老の家に集まっている村人達。 (これは葬儀が行われる前のことだったという)。 葬り去られた魂のために祈る男たちと女たち。 その後、家の奥の間から棺を担いだ男が現れて長老の遺体と共に家から出てきたという。 この時男は、葬式を取り仕切ることになっていた男に向かって言ったのだという「葬儀を予定通り執り行ってくれ」と。 しかし、この発言に対して異議を唱えた者もいたようだ。 葬られるはずだった男が担がれてきたことで大騒ぎになったのだという。 男は「自分が葬式をするのは変なんじゃないか」と言い出したのだそうで。 葬式を執り行っていた長老の家にあった書類には、この日葬式が行われることを知らせる内容が書いてあったという。 葬列は男を先頭にして家を出て、葬儀の会場に向かったという。 ●第7話 葬式が行われた会場は長老の自宅でもなく島の中心部でもない、森の中に建てられた集会所のような建物だったという。 葬式に参加していた人々は男の言葉を聞くために集まったのだ。 葬式が終わると男はそのまま姿をくらませたという。 長老が死んだ後も男は相変わらず島の中で生活を続けていたらしいが、やがて男は姿を消す。 男はどこに行って、何をしていたのだろうか? 葬式は長老の葬儀の時のように村の人々にちゃんと伝わるように行われてはいなかったのではと言われている。 男の遺体は海に流されてしまい、そのまま行方がわからなくなってしまったらしい。 男が葬られたとされる場所とはどこのことを指しているのか? 男は葬式の後姿を消したようだったがどこに消えたのか? そもそもなぜあの男は葬儀を行う必要があったのだ。 本当に死んでいたのなら葬儀などする必要もなかったのではないか。 あの男に葬儀を行わせた理由はなんなのだ。 男が「私が死んだとしても疑問を抱く必要はない」と言ったことの真意は何なのか? 葬式に参加した人間たちは皆それぞれ自分の思いを語ったという。 「長老の遺言通り男のことは忘れることにした」と言って去ったものもいれば、長老は死んでしまったし今こそあの男が言う神のことについて考えなければならないという意見も聞かれたという。 他にも様々な声が上がったというが、誰かが真実に気づいた。 「そういえばヘリコプターがこの島に来てからおかしな事が起き始めた」という。 すると、そういえばそうだ、と今まで口を閉ざしていた人達が暴露し始めた。 「長老にはお世話になっているか言わなかったが…」 またある島民は怯えた目で「長老に口止めされてた。 怖いよあの人」「秘密を漏らすなって凄まれた」などと証言していたのだという。 ヘリコプターが島に来始めてからの事件にはどんなことがあったか。 ヘリコプターのエンジン音のようなものが聞こえ始めるようになったという。 ヘリコプターの音を聞いたものは誰もいなかったが、何かが空を飛んでいるのを見たという噂が流れたという。 島の人々が空を見上げていると、ヘリコプターが何回も同じ場所を行ったり来たりしたらしい。 ヘリは島の上空を一巡した後、今度は長老の家にまっすぐ向かったという。 長老が亡くなった直後、誰かがヘリコプターに乗ってどこかに行くところを見たという。 男は長老の家にやってきた時、「この家で私は生まれるのだ」と言ったという。 男を乗せた後、長老の家は煙に包まれてしまったのだという。 長老の死後男はまた村に現れたのだという。 葬式の時に男と言葉を交わした人間は一人として存在しないという。 ヘリコプターでやって来たのは誰なのか? 「この世界で起こっていることについて考えてみたことはないのか?」 葬式に参加していない人間はいたが、誰がいなかったのか? 25日に何があったか 男は結局誰にも知られないまま消えてしまう。 彼の姿を知ることができる者はもういない。 しかし彼はこの世に存在したのだ。 彼が葬られたとされている場所は一体何処にあるのだろう?その墓はいったいどのような形で存在するのか誰も知らない。 その場所にはいったいいつになれば行けるようになるのだろう。 それまで我々は彼を忘れずにいたほうがいいのだろうか。 それとも、忘れるべきなのだろうか? 男が葬られることになった経緯とは 葬ったのは本当にあの男だったのか? 男は死んだのか。 男は本当に神になってしまったのか 男は結局何をしようとしているのか なぜ葬儀が行われたか。 その目的はなんだったのか 男がいなくなったことで村には変化があったのだろうか 葬儀に参加した人々は皆それぞれが思いを口にしたという。 葬儀をどのように行えばよかったのか?葬式に参加するということは死者を送るということではなかったのか。 葬式に参加しなかった人間はどうなったのかという 葬式に参加しても何もわからない。 ただわかるのは、この葬式に意味があったこと。 葬式をすることで、男について知ることは出来たがそれは決して良いものではないということだけだ。 そして島では相変わらずヘリコプターと称するおおよそヘリコプターとはかけ離れた異形の生き物が生息している。 彼らは島に電気と水を運んでいるから島民も大目に見ているが、相変わらず長老の時のように不審死が相次いている。 島の朝はいつもと変わらぬように始まった。ヤシの木は穏やかに揺れ、海はその永遠の歌を歌い続けていた。しかし、この日は何かが違っていた。空には、昨日までの異形のヘリコプターの姿がなかった。 島の人々は、一様に静かだった。長老の家の跡地には、新しい花が植えられ、彼らはそこに集まっていた。島民一人一人が、花に水を注ぎ、静かに祈りを捧げていた。それは、失われた長老への哀悼の意であり、また、謎に包まれた男への、言葉にできない感謝の気持ちだった。 男についての議論はもはやなかった。彼は、まるで夢の中の存在のように、島民の記憶から静かに消えつつあった。しかしその影響は、島の日常の一部として残っていた。ヘリコプターがもたらした技術、長老が語った教え、そして何よりも、島民同士の絆が、今まで以上に強まっていた。 日が暮れると、海辺で小さな祭りが始まった。火が点され、島民は踊り、歌い、共に食事を楽しんだ。彼らは過去を振り返りつつも、現在を生き、未来に目を向けていた。男の存在は、島に深い変化をもたらし、島民はその変化を受け入れ、新しい日常を築き上げていた。 最後に、火の周りで子供たちが質問をした。「あの男は、本当に神だったの?」大人たちは微笑みながら答えた。「神かどうかはわからない。でも、彼は私たちに大切なことを教えてくれた。それが一番重要なんだよ。」 星空の下、島は静かに眠りについた。非日常が日常と同化し、新しい伝説が、この小さな島の歴史の一部となったのだった。 長年、島の住民たちは古代海底文明の遺跡の存在を知らずに生活していた。しかし、男が島に現れたことで、全てが変わった。彼は、遺跡の発見者であり、その秘密を唯一知る者だった。 男は長老の家に来た時、意味深な言葉を残した。「この家で私は生まれるのだ」。これは、彼が遺跡と深い関連があることを示唆していた。長老はこの秘密を知る唯一の島民であり、男の真の目的を知っていた。 ヘリコプターの来訪は、遺跡に関連した外部勢力の介入を意味していた。彼らは、男が持つ知識と遺跡の力を利用しようとしていた。しかし、男は島を守るため、そして遺跡の秘密を守るために、自ら姿を消したのだった。 葬式の際、島民たちは男の言葉に耳を傾け、彼が遺したメッセージを理解し始めた。「私が死んだとしても疑問を抱く必要はない」。これは、男が自らの存在を超えた何か、すなわち遺跡の力とその知識を島民に託したことを意味していた。 男の遺体が海に流され、行方不明になったのは、彼が遺跡と一体化したことを示していた。古代海底文明の遺跡は、島の下に眠る巨大なエネルギー源であり、男はその守護者となったのだ。 島民たちは、長老の遺言に従い、男のことを忘れることにした。しかし、その選択は、男が遺跡の秘密を島民に託した意志を尊重する行動でもあった。彼らは遺跡の力を利用して、島を繁栄させることを選んだ。 後世の研究によれば真相はこうだ。 かつて、縄文海進以前のこの島には、羽の生えた神々に導かれたヘリコ文明が栄えていた。神々の恩恵を受けた人々は繁栄し、壮大な神殿を建て、神々を祭った。しかし、運命の海面上昇と共に、文明は崩壊の道を辿り、善悪に分かれた人々の中で、善良な者だけが神々の翼に縋り、災禍から逃れた。時が流れ、神々の記憶はヘリコプターという形で伝承された。 日本政府が島の沖に沈む古代神殿の遺跡を発見し、調査を進めた結果、神々の秘密を記した石板が見つかった。その解読により、ヘリコプター人間の存在が明らかになった。政府は島民の遺伝子を解析し、新たなヘリコの神を創造しようと計画していた。 この計画に対し、ヘリコプター人間は邪悪な政府の意図に反抗した。彼らは島民と共に立ち上がり、自らの運命と島の未来を守るために戦った。葬式が行われたその日、彼らは最後の決起を計画していた。 男は、その計画の中心人物であり、ヘリコ文明の最後の末裔だった。彼は自らの命を犠牲にして島民を守り、政府の野望を打ち砕くことを決意していた。葬式の後、彼は姿を消し、その遺体は海に流された。これは、神々との終わりなき絆を象徴し、彼らの精神が島民の中に永遠に生き続けることを意味していた。 島の人々は、男の犠牲とヘリコプター人間の勇気を忘れず、新たな生活を始めた。長老の遺言に従い、彼らは過去を背負いつつも、未来に向かって歩みを進めた。神々の記憶は島の伝説として語り継がれ、ヘリコプター人間の精神は、島民の心の中で永遠に輝き続けることとなった。
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