幽霊くんとの出会い。

2/4
前へ
/4ページ
次へ
 希薄な人間なんです。私。  そんな風にいつも、心の中でカミングアウトする。私は別に、『私以外』はきっとたいして大切じゃない。  英語が必須科目に含まれてから、「pretend」という言葉がずっと私の中にあった。そうそう、それ。「ふりをする。演じる」。それ、私です。  そんな立ち位置のキャラクターにはいつも親近感を覚えて、特別に好きになった。 「それでね、予定が狂っちゃって、もーってなって、」 「わかるっ! それなら最初から教えておいてよって感じよね! そしたら予定変更してまたスケジュール組み直せたのにって思うと、どっと疲れるよねぇ~」 「そうなの! ほんと、それ!」  相手の感情や続く言葉を言い当てて、きらきらと輝く目を見るのは嫌いじゃない。こうやって、その心に共感する『ふりをする』。この会話を楽しんでいる『ふりをする』。  ……みんな、そうやって生きてるわけじゃないの?  どうしたら『上手く』生きていけるのか考える。『波風立てず』かといって、誰かの『特別』にもならず。自由気ままを捨てず。かといって、『付き合いの悪い、感じ悪い人』にもならず。  チラリと時計を確認する。ああ、もう三時。ランチしよう!ってお昼の時間から二時間くらいかと思っていたけど甘かった。十一時から、もう十五時。私の四時間。こんな、実りの無い会話で消費されていく。  さっきの話をなぞるようになってしまったが、どっと感じた疲れに、こっそりと息を溢す。疲れを感じたことに、やっぱり少し、罪悪感はする。決して彼女のことが嫌いだと言うわけではない。  食べ終えたランチの皿は綺麗に片付けられていた。すっかり冷めてしまったホットだったはずのハーブティーをゆっくりと飲んだ。ごくり、と喉が鳴る。  頭の中でシミュレーションする。『あっ! もうこんな時間だ!』言う私に、彼女も『あ、ほんとだ!』と時計を確認する。『あっという間だね。名残惜しいけど、そろそろ行こうか?』ーーーうん。不自然ではないはず。私の演技力にかかっているけど。彼女だってひょっとして、お開きにするタイミングを計りかねているのかもしれない。ーーー私はいつだってそう。最終的には、相手の気持ちを自分の都合のいいように解釈する。  結局、この時間を共有して同じ気持ちで楽しんで居られない相手と居る時点で、彼女にとってもこの時間は不利益以外のナニモノでもないに違いない。 「あっ、もうこんな時間だ!」 「あっ、本当だ! どうする? デザートでも食べて帰る?」 「えっ?」 「あ、ひょっとして、……時間無い?」  付き合わせちゃったかな、と不安そうな顔はシミュレーションの何処にも無かった。 「……ううん。良かった。実は私も、デザート食べたいけど、佑実の時間どうかなーって思ってとこ。佑実がいいなら、全然いいよ。気になってたスイーツあるんだ! 食べよっ!」 「よかった!」  まぁ、大体そうです。いつも、そう。  結局、シミュレーション通りに行くことなんて、そうそう無い。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加