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頬に伝わる軽い刺激と音で、無から意識のある状態へと引き戻されたので、目をゆっくり開いた。目の前には焔がいる。
「嬢ちゃんッ! 大丈夫か? 呼びかけても起きなかったから、頬を叩いてたんだが、目が覚めて良かったぜ」
「なんだか……小さい頃の夢を見てた気がする。私、あの後どうなったのですか?」
焔に抱きかかえられた状態で私は聞いた。
「虚に飲まれた後、俺と怜で嬢ちゃんを助けたんだが、体に傷はなさそうなのに、全く目を覚まさねぇから焦ったよ」
「……ねぇ、さっきの影は虚と言うの? あれは何、なんで私を襲うの?」
「虚については僕が説明します。先ほどは貴方を守れずに、申し訳なかった……」
焔の後方から私の顔を覗き込み、怜が眉間にしわを寄せて悲しそうに言う。
「いえいえ、それより。虚ってなんですか? 教えてください」
「まず、朱華市の言い伝えは知っていますか?」
「いいえ……言い伝えなんて、ありましたっけ?」
「はい。この朱華市では、午前零時を過ぎると"虚"という先ほどの、黒い影が現れ始め、我々を常世へ連れていくと言われています。そのため、朱華市の住人らは、その時刻を過ぎると外出はしないのです。虚について詳しくは僕たちにも分からず、色々な形の影となり、常世へ連れて行こうとしたり、朱華稲荷神社を壊そうと襲ってくるのです。奴らの目的も分からず、僕たちは神社を守る為に戦っているのが現状ですね」
「……そういう事だったのですね」
虚がなぜ、私たちを常世へ連れて行こうとするのか、またその言い伝えが本当か分からないのが気になるが、目の前にいる2人の存在が人間ではない事が、今一番に私の中での疑問だ。なので、聞いてみる。
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