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建物の入り口付近には、赤い野点傘と同じ色の毛氈が被せられた、床几台のセットがあり、その近くにある小さな暖簾には"稲夜茶屋"と書かれていた。
「(ここで間違いなさそう)」
あと私が今思い出した事は、この茶屋は若い女性客にとても人気という話を聞いていた。店員は、狐面を常にしており素顔を誰も見たことがない……(との噂)だけど、その顔が見えないからこそ、妄想が膨らんだ女性客が後をたたないという話だ。
私も、その話に心を躍らせながら茶屋へと足を踏み入れる。今日は休日である為、客は店内にいなかった。
内装は、外と同じような和モダンを感じさせるお洒落な作りで、格子柄の畳が敷き詰められた床が特徴で、座卓とそれ用の椅子がある。
入って和室が左奥に見えて、私がいる目の前には、和室とは違う今時なカフェにある机と椅子のセットが並び、天井からは和紙製の丸くて可愛らしい、ペンダントライトが垂れ下がっている光景が広がる。
まさに和モダンな茶屋と思う。私が店内を眺めていると、奥の調理場にある狐の描かれた暖簾から、1人の狐面を被った着物姿の人が出てきて、私に近づき……
「君を……君を待っていました。 よく僕たちの所に来てくれた……ありがとう」
私より大きいが小柄な男の人であろうか。そんな彼が突然と私に、涙声で話掛けてきたと思ったら、きつく体を包むように私を抱きしめる。面があるので表情は見えない。
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