ブレーキ

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ブレーキ

高校の頃、放課後は幼馴染の美里といつも一緒に下校していた。   美里はブラスバンド部に入っていたが私は帰宅部だった。なので美里の部活が終わるまでは漫画研究部の部室で暇をつぶしていた。 「ウグ、部活終わったよ、帰ろう」 「え! もう終わったの? もう少し読みたいのに」 「お腹空いたよ~ 早く帰ろうよ」 「はいはい、──ねえ、部長さん、この3冊借りていい?」 「ほほ~ ウグイス殿はドリフトが好きなのですかな」 「フフ、グリップ走行なんて地味な走りは願い下げよ! ドリフトができてこそ究極の走り屋なのよ」 「ヘヘヘヘ」 「フフフフ」 「ヘヘヘヘヘ」 「あなたたち気持ち悪いわよ」 「気持ち悪いって拙者の事ですかな」 「二人ともよ」 「私は気持ち悪くないでしょ!」 「鏡で自分の顔を見てごらんなさい、気持ち悪いから」 私は部長さんと二人並んで鏡を見た。 言われた通り気持ち悪かった。 「さあ帰るわよ」 「へいへい、それじゃ部長さん、明日も来るからね」 「明日は学校が休みズラ」 「あら、そうだったかしら?」  ── 私と美里は漫画研究部を出た。 自転車置き場には私のマウンテンバイク、ウグイス号が優美な姿を醸しながら駐輪されていた。 私の自転車はオークションで購入したクロモリフレームに父親が部屋に飾っていた高級チタン製マウンテンバイクから必要部品だけ取って組み直した逸品である。 見る人が見ればディレイラーとハブに示されたメーカー名とコンポーネントグレードを見るだけでその価値が分かるはずだ。 ただ学生なので何かと後ろの荷台を活用する機会が有り、ダサいが渋々付けている。後ろのステップに関してもBMXのやつを付けているのだが、これもダサくて嫌だが時々美里を乗せるので仕方なく付けている。  「ねえウグ、今日は後ろに乗せてよ」 「いいわよ、また楽器を持って帰るの?」 「うん、明日学校休みだから持って帰って家で練習したいのよ」 「まかせて、転がり坂を一気に駆け抜けて下界まで降りてみせるからね」 私達が通う高校は丘の上に建っていて一直線に伸びる1キロメートルほどある急な坂道を昇り降りしなければならない。 この坂に正式名称は無いが通称転がり坂と命名されている。 坂の両脇は段々畑である。 「くれぐれも安全運転でお願いするわね。この楽器、学校が新しく買ってくれたばかりなんだから壊したら切腹ものよ」 「分かってるって、私は安全運転のウグイス様よ」 「本当かしら」 「本当よ」 「ウグを信じてるからね。安全運転してよ」 「まっかせなさ~い。──それじゃ行きますか」 「うん」 美里がゆっくりまたがって荷台に腰を下ろした。 私は左足に体重を乗せてサドルを踏み込んだ。 「うっ! ──重」 「重くないわよ、軽いでしょ!」 「つべこべ、──言って ──ないで、──ちゃんと ──足で ──グリップしておくのよ」 「うん」 「それじゃ(くだ)るよ!」 「うん」 「ちゃんと前見ててよ!」 「ケースを立てて持っているから前なんか見えないわよ!」 「そおぉぉ!」 一段ギアを上げると自転車は徐々にスピードを増していった。 下り坂に入りスピードが上がるとペダルが軽くなって周りを気にする余裕がでてきた。すると横方向に気配を感じたので横目で見ると── 「鼻たれウグイス、お前はカメか!」 野球部のバカ男こと、同じクラスの田中拓斗が絡んできた。そして横に並んだかと思ったら一気に追い抜いていった。 「うっさいわよ、童貞野郎!」 「バーカ バーカ」 「2ケツすんな!」 「警察にチクるぞ!」 「パンツ見せろ!」 「揉ませろ!」 野球部のバカが5人に増えて私達を追い抜いて行った。 「ムカつく野郎どもね、美里、しっかり掴まっておくのよ」 「ちょ! ムリ!」 「行くわよ!」 ギアを更に一段上げて高回転でサドルを回すとスピードが急激に上がった。 「ちょっ、ちょっ」 美里の叫び声を無視して私は全速力で奴らを追い抜いた。そして中腰になりお尻を叩いた。 「あんたらトロすぎ!」 「おい! ウグイス、前、前」 田中が私に叫ぶ。 前を見ると小学生の団体さんが道を横断していた。 私は慌ててブレーキレバーを力強く握った。するとスコンッ! と力が抜けて、そして間髪入れず前輪のVブレーキのシューが顔かすめて吹き飛んで行った。 この時の私のとるべき道は1つ、横の田んぼに突入するしか無かった。幸い刈り取り後なので水は無い。 「美里! 歯を食いしばれ!!」 「え!」 私と美里は自転車ごと田んぼに突っ込んで物凄い勢いで吹っ飛んだ。 私はなんとか受け身がとれてケガも無く無事に着地できたが、美里は楽器を持っていたので受け身が取れず、パンツが丸見えなのもお構いなしに楽器共々転がり続けている。 暫くして遠くの方で美里の回転運動が徐々に止まるのが見えた。 私はすぐさま美里の所に駆け寄って硬く抱きしめた楽器ケースを引き離し放心した美里の頬を叩いた。だが戻ってこない。どうやら精神的にやられてしまっているようだ。 しかし私は美里の生きている姿が確認できてついつい気が緩み笑いがこみ上げて吹いてしまった。 「プっ! 美里、ワラまみれねアッハハハハハハハ」 「ウグのバカ、怖かったのよ!」 やっと美里が戻って来た。 「でも無事でよかったね、プッ!」 「何で笑うのよ!」 「だって、怖かったから」 「それアニメのセリフ」 「だったねヘヘ」 「お前ら大丈夫か?」 野球部のバカ男どもが近寄ってきた。 「ほら美里、早く立って。立たないとこの馬鹿どもに犯されるよ」 「ウグイス! お前何てこと言うんだよ、俺たちは心配して来てやったんだぞ」 「そーだ、そーだ」 田中と野球部のバカ男達が美里の下半身をチラチラ見ながら吠えている。 「野獣共の視線の先は~、──美里の丸見えパンティーでしたアっハハハハ」 美里は顔を赤くして慌てて立ち上がった。  
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