小晦日

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「……その話聞いた時、思ったんです。俺らが居なかったら、千尋の母はわざわざそんなことしなかったんじゃないかって。……5歳で死に別れるのだって普通に辛いですけど、でも、ある日突然捨てられたって思い込んでるよりはマシかもしれないじゃないですか。……そうしたら兄貴も、もっと違った生き方が出来たんじゃないかって」 「……でも、だとしても、あの人は貴方のことは大事に思っているし、貴方が居ない人生も、無かったと思うよ」  彼は唇を結んで、眼を伏せた。  彼らがお互いを大事にしているのは、その境遇もあったと思う。  ごく普通の男兄弟なら喧嘩をすることもあったろうけど、多分、家の犠牲になったもの同士だから、分かり合えて思いやることが出来る部分もあったと思う。  その点で余計に辛いのは、義弟の方だろう。  兄とその母親を踏みつけにした上に自分の存在があるのだから。 「……コーヒー、冷めたでしょ。温かいの淹れようか」  私が立ち上がると 「あ、でも……もう」 彼は言いかけたけれど 「あたしだって、その話聞いて今どう消化したらいいか分からないもの。あと一杯分付き合って」 「……ありがとうございます。……ていうか」 「ん?」 彼は笑って言った。 「やっぱり、義姉さんだから続いてますよ。兄貴」
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