小晦日

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「ごめん。元気が無いように見えたから、つい心配になって。余計なことを言って悪かったね」 「ううん」  あの紫陽花の件以降、自分も、多分この人も少しずつ、今まで足りなかったことを補うようにしてるうちに、だいぶ関係は変わった。  今考えると、この人がギスギスしてきつく当たってたのも、私の態度がそうさせていたのじゃないかとも思う。  毎日顔を見て暮らすのだから、ある意味夫婦は鏡のようなものだ。  前よりだいぶ和らいだ笑みを彼は浮かべた。 「お茶も持って来てくれたなら、早速淹れようか。お茶菓子も買って来たから」 「……うん」  前に聞いたけど、どこのお茶かは忘れた。色は薄い金色で、花のような香りがするけどきつくはなくて、食べ物の味を邪魔しない。  夫が買ってきたのは、この時期にしか食べられない、求肥で白味噌の餡と甘く煮た牛蒡を挟んだお菓子。 「あたし、花びら餅って貴方と付き合わなかったら食べたことなかっただろうなって毎年思う」 「そう?」 「だって実家は和菓子屋さんなんてわざわざ行かないし、買ってもどら焼きや羊羹くらい」  夫は笑う。  うちは、何のこだわりもないガサツな家だけど、それはそれで気を遣う必要がないからか居心地が良いらしく、実家の家族のことは好ましく思ってくれているようだ。
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