小晦日

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「これも、……お母さんの家で食べてたものだから、お手伝いさんが買ってきてくれてたんでしょう?」 「そうだね」  一口かじって、思う。  真実は知らなくても、こうして受け継がれてるものもあるって不思議だ。  5歳までしか一緒に居られなくても、義弟の言ってた通り、この人は容姿も性格もお母さん似で、我知らず同じものを食べて、同じものを好む。 「美味しい」 「それは良かった」 と夫は微笑む。 「……ねえ、思ったんだけど」 「ん?」 「……こういうの、お義父さんや一臣君も自分たちじゃ食べないだろうから、たまには差し入れしてあげたらどうかな」 「ああ」  お茶を飲んで、彼は宙に目を向ける。 「そうだね。……もう行かない理由もないのだし、都合を聞いて大丈夫そうなら顔を出そうか」  理由……というのは、もう亡くなった継母のことだ。  結婚の挨拶を含めても一度も私が会ったことがないのは、この人はあくまで前妻の子で自分とは何の関わりもない人間だとその人が割り切っていたからだ。  お葬式も『君は来なくていい』と言われたから、遺影すら見たことがない。  義弟から想像するに、多分整ってるけど勝気そうな美人て感じだったんじゃないかと思うけど。  結局、義父にとってはこの人は最愛の人の忘れ形見で、でも継母にとっては目の前から消し去りたい存在で……義父も義弟も、この人に構えば後から余計にこの人が継母から疎まれるから、表立って愛情かけることは出来なかったということらしい。
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