小晦日

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「ううん。あって困るものじゃないから喜ぶと思う。ありがとう」 「じゃ、あとこれいつものお茶といろいろ入ってるんで」  紙の手提げごと彼は差し出す。  彼らの実家は祖父の代から輸入業をしていて、戦後にコーヒーの取引を始めたのがきっかけとかで、今も高級茶葉の仕入れなんかも扱っていて彼のお気に入りの希少なお茶を分けてくれる。 「すいません。いつもありがとう。……これから、まだどこか行くの?」 「えっと……」  言葉を濁した彼に私は言った。 「良かったら、お茶でも飲んでく?お兄さんほど美味しいのは淹れられないけど」  ははっ、と彼は笑う。 「俺には兄貴のは高級過ぎて味分からないんで。じゃ、お言葉に甘えて少しだけお邪魔します」    腹違いといっても、十分仲のいい兄弟に見えるし、面影も似ていなくもない。  ただ、弟の方が父親に似て顔つきも体つきも男性的なしっかりした感じで、兄の方が線が細い感じだ。  夫と五つ違いの彼は、30歳の時に一度結婚したけど3年後には別れて、うちと同じく子供はなく、今はお父さんと二人で暮らしていて家事はお手伝いさんに来てもらっているらしく、再婚の気配はないけど自由な暮らしを楽しんでいるように見える。 「どうぞ。インスタントだけど。一臣君はミルクと砂糖だよね」 「すいません」
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