小晦日

3/16
前へ
/17ページ
次へ
 コーヒーを淹れたマグカップを置くと 「頂きます。寒かったんで、有り難いです」 と微笑んで早速口に運ぶ。  他人を、まして男の人なんか留守の間に入れたら、多分めちゃくちゃ怒るだろうけど、弟に関しては別らしくこれで文句を言われたことはない。  向き合って座った彼は、カップを手に世間話のように言った。 「兄貴、どうですか。最近は。相変わらずですか」 「……うん、まあ……でも最近は少し、落ち着いたかな」  今年は、忘れてたけど思い出した紫陽花を見に行って、あれをきっかけにお互いに今までより一歩譲ったり言葉を増やしたりして、少しは関係が良くなった、気がする。 「良かったです。今だから言えるけど、正直、兄貴が結婚するって言った時は大丈夫なのかよって思ってたから」 「あたしもそう思ったよ」  彼は笑う。 「親父も兄貴のことは心配してたから、感謝してると思いますよ」 「もっと出来たお嫁さんだったら良かったんだろうけど」 「いや、十分過ぎだと思いますけど。兄貴には」  真顔で言われて、私は苦笑いする。 「そう思ってもらえるのは有り難いけど。……」 「少なくとも、俺が見る限り、史香さんより気が利きすぎても鈍くても合わなかったと思いますけどね。あいつも難しいから」 「……そうかな」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加